約 1,837,665 件
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/386.html
――しかるに。 カミーユの前に現れたのは希望ではなく、圧倒的な力だった。 「……そういうことかよ……」 カミーユの前に立つのは、三機のメディウス・ロクス。デュミナスが他の掌から射出した個体たち。 当然、三機とも無傷の状態だ。一機でもあれだけてこずる相手が、同時に三体。 カミーユは、それでも片手でディスカッターをサイバスターに構えさせる。 「理解しまし」「たか? 現実が見えてない」「のは、あなたのほうです」 全く同一の声による三重音という不気味な声がカミーユに浴びせられる。 じりじりとにじり寄るメディウス・ロクスたち。サイバスターもじわじわと下がる。 天から現れるご都合主義の神様はいない。サイバスターを救ってくれる救世主はない。 それでも、サイバスターはカミーユの闘志に答え、動いてくれている。 「いい加減諦めたらどうです」「か? あなたが勝利する可能」「性はありません」 相変わらずの三重音と、人の気を逆なでするだけの丁寧語が聞こえてくる。 「「「諦めましたか?」」」 確かに、サイバスターを救う神はこの世界にはない。 だが。 「エネルギー反応――!」「速い!?」「隔壁を――!?」 その場にある全てを破壊しようとする魔神は、この世界にもいた。 所詮非生物のメディウス・ロクスにはなく、カミーユにはある感覚。それは、命の危機に対する反射だ。 巨大なプレッシャーを間近に感じるや否やカミーユはサイバードに変形してその場を飛び去った。 突然の反応に対応が一歩遅れたメディウス・ロクスたちは――天井の隔壁を突き破り、天から落ちてきた巨大な剣にその身を引き裂かれた。 空から落下する瓦礫がサイバードも巻き込み、サイバードは地に落ちる。 剣の突撃は止まらない。一撃は、そのまま床の隔壁すら貫通し、星の中心へ全てを落としていく。 「ァ――――!」 声にならない声が響く。それは、メディウス・ロクスと同じ声。 サイバードが瓦礫の中から顔を伸ばし、外を見る。そこには、デュミナスの巨体を、それに匹敵する巨大な剣で縦に貫く蒼い騎士がいた。 ギリギリで中心線を切られるのを避けたのか、肩口からデュミナスが両断される。宙に浮遊していた掌が、けたたましい音を立てて床に落下する。 「あれは……」 紫雲統夜とかいう奴が乗っていたはずの機体、のはずだった。 今のそれから立ち上るのは、まったく別の、ノイ・レジセイアによく似たざらついた何か。 だが、ノイ・レジセイアほど平坦で、単一ではない。目を焼かれるのではないかと錯覚を覚えるほど、激情が燃えている。 人間ではない。けれど、ひどく人間らしい。矛盾した蒼い騎士が、そこにいた。 サイバードを瓦礫から出そうともがく。サイバスターにもはや力はなく、僅かに体にかぶさった瓦礫を揺らすだけだった。 揺れが、余計にカミーユの意識を混濁させる。それでも、カミーユは叫ぼうとする。しかし、もはや、それすらできなかった。 口を開けば、口から内臓が、いや魂まで出てしまうのではないかと思うほどの苦しみ。 カミーユには、ただ歯を食いしばり、空に浮かぶ二機を見つめるしかなかった。 突き刺した斬艦刀を通して、力からが流れ込んでくる。ドクン、とこの力を得た時の感覚が再び蘇る。 行動はシンプルに、躊躇わず一直線に駆け抜けるという宣告通り、統夜は最短ルートを駆け抜けついにノイ・レジセイアの前に到達した。 斬艦刀の液体金属と、ナノマシンの融合によって吸い上げられる力が、イェッツト・ヴァイサーガと統夜に充填される。 倒れ伏すよくわからない化け物の大量の力の大部分が、もはや統夜のものへと変更された。 「ァ、ゥ、ゥ、ゥ、ゥ……」 切れ切れに言葉になっていないうめきを漏らす化け物から、縮めた斬艦刀を抜く。 そして、統夜は目の前に浮かぶ赤い髑髏の騎士を見上げた。統夜自身がアインストの亜種とも呼べる存在になり果てたから分かる。 間違いなくあの頭上に浮かぶものが、ノイ・レジセイアであることを。 「その力……その肉体……我らとは似て非なるもの……何故、お前が……」 「知らないさ。やらなきゃいけないことがあったから、こうなっただけだ」 ノイ・レジセイアは僅かに沈黙したが、すぐに再び口を開く。 それは、統夜の想像しているものとはまったく違うものだった。 「……素晴らしい」 「……なんだって?」 「我らを基礎として……人間の在り方を、力を納めることで完全となる……その正逆。 人間としてもがく存在に、我らを宿す……さらに数多の力を納め……完全となる……」 ここまで辿り着いたその生命力……意志力……素体の選択も間違っていない……」 ノイ・レジセイアからこぼれたのは、統夜に対する称賛だった。 この場でたどり着いた時点で戦いの鐘が即座になると思っていた統夜からすれば、逆に不意を突かれたことになる。 「ァァァァァ!! ワタし、は、まだ完全デはないィィィ……!!!」 足元に転がっていた化け物が起き上がり、暴れ始めた。腰を落とすことでバランスを取りなおすと、素早く跳躍し空へ。 化け物は、半分だけになった体を砲弾のように加速させると、空にあいた穴から何処かに飛んでいく。 統夜はとどめを刺すべく斬艦刀を振り上げるが、突然濁った桃色の掌4つが、統夜の視線を遮るように飛来した。 咄嗟に斬艦刀を通常の刀の倍程度の長さに変え、すぐ側に迫る掌をまとめて迎撃する。 さらに進化したイェッツト・ヴァイサーガの一撃は、それらをまとめて叩き切った。 「くっ!」 獲物を追うため反射的に統夜は自分があけた穴を振り仰ぐが、そこからは小さな破片が落ちるばかりでもう化け物の姿はない。 逃げられたことに小さく舌打ちをしつつ、統夜は追うことを諦める。 なぜなら、統夜の前にはあの化け物よりも狩らなければならない敵がいるのだから。 「完全から程遠い……あのような存在に価値はない」 はるか高みから、這いずる存在を断ずるノイ・レジセイアの声。 統夜は、斬艦刀を鞘におさめ、居合い抜きの姿勢を取る。しかし、ノイ・レジセイアはその手に掴んだ大太刀を構えようともしない。 それどころか、手を差し伸べるがごとく統夜に伸ばす。 「……なんのつもりだよ」 「静寂を乱す必要はない……もうすぐ古き宇宙は終わる……新たな宇宙に生きる資格を持つ者……」 「……新たな宇宙に生きる資格を持つ者? 俺のことなのか?」 「そうだ……新たなる完全に近しい生命……その雛型にふさわしい……全てが満たされた世界に行く資格を持つ、たった一人の……」 「そうかよ」 統夜が、イェッツト・ヴァイサーガが鞘から剣を抜き放つ。超射程・超高速を両立する斬撃。 しかし、ノイ・レジセイアは大太刀であっさりとそれを受け止めた。顔を統夜はゆがませる。 これで倒せるほど楽な相手はとは思っていなかったが、簡単に受け止められるとは。 やはり、ここに来るまでに来た人をガウルン呼ばわりした奴の機体とは比べものにならない。 「……何のつもりだ? 全てに満たされた世界……何故それを否定する……? お前は望む物すべてを得ることができる……全てを叶えることができる……それを……何故……?」 髑髏の騎士に張り付いた顔が歪にねじ曲がる。 まったく統夜のことを理解できないと言わんばかりの声に、統夜は薄い笑いすら浮かべた。 ノイ・レジセイアはまるで自分のことを分かっていない。だから、平気でそんなことを言える。 「世界なんていらないね……そんなものがあったって――― 一人きりの世界のじゃないか!」 統夜は、どんな物も求めない。どんな世界だろうと必要ない。統夜が望むのは、たった一人の命。 望む者の名は――テニア。たった一人で新しい世界に行くなど、統夜からすれば戯言。 テニアを、この手で生き返らせて見せる。 手を血に沈めた自分が完全に近い生命? 新たな宇宙に生きる資格を持つ者? ちゃんちゃら可笑しい話だ。 距離を詰めるイェッツト・ヴァイサーガ。 イェッツト・ヴァイサーガの剣と、ノイ・レジセイアの大太刀が再びぶつかり合った。 「理解できない……やはり……思考、思想は人間か……」 「ああそうだよ! みっともなくて、人間らしい考えで悪かったな!」 その手に握る武器を交差させ、鍔迫り合いの形で顔を突き合わせ統夜は叫ぶ。 イェッツト・ヴァイサーガは、足を止めず動き回る。加速したスラスターの火を背負い、マントを翻し何度なくノイ・レジセイアに切りかかる。 大きさは、ほぼ互角。しかし、動きの速さではイェッツト・ヴァイサーガに軍配が上がっていた。 化け物から取り込んだ力で腕の内部構造を復元させる。そして、両の手でしっかりと斬艦刀を掴んだ。 大上段からの討ち降ろし。真横に構えた大太刀でノイ・レジセイアが防ぐが、さらに一気に刃を引くと、ナイフの形にまで縮小する。 文字通り討って変わって、まっすぐと腰だめに構えたナイフによる突撃。今度は手首をつかみノイ・レジセイアは食い止めた。 逆に振り下ろされる大太刀だったが、イェッツト・ヴァイサーガはその状態から強引に手首を掴む相手の腕を蹴りあげた。 その衝撃で相手の手は離れ、自由になる。後退はしない。大太刀をかいくぐり、イェッツト・ヴァイサーガはさらに攻撃を仕掛ける。 剣を振るには、あまりにも不向きな距離。故に、統夜は別の攻撃手段を使用する。 蹴りあげた手首を足場に、高みに駆け登るようにイェッツト・ヴァイサーガが飛ぶ。 ちょうど、イェッツト・ヴァイサーガの腰の位置にノイ・レジセイアの頭がある。統夜は、その状態から一気に上体をひねる。 足の先から烈火刃が生え、スパイクを形成する。今イェッツト・ヴァイサーガが放つのは、 「――神槍裂脚ッ!!」 超人的、いや超機的瞬発力から放たれる回し蹴りが、真空刃を纏いながらノイ・レジセイアの頭部に炸裂した。 ノイ・レジセイアの頭部が砕け散り、形成していた骨に似た物質が空間にばらまかれる。 だが、ノイ・レジセイアはこの程度で死ぬような生易しいものではない。統夜は、目の前の光景に対応すべく、素早く腕を交差させた。 次の瞬間、ノイ・レジセイアの肩付近に浮かぶ二つの髑髏から、金色の極太の光が放たれた。 「が、ああああああ!?」 腕がぶすぶすと焼かれる感覚に統夜は絶叫する。今のイェッツト・ヴァイサーガは人機一刃。 痛みが100%還元するわけではないが、かなりの痛みが統夜を襲う。 それでも、決して剣は手放さない。逆に袈裟切りしようと加速するノイ・レジセイアを、焼けた腕を必死に動かし剣で受ける。 「再生しろ! こんなところで止まれないんだろ! こんなところで諦めるくらいならあそこで朽ちてるだろう!?」 脂汗を流しながらもイェッツト・ヴァイサーガに――自分に統夜は言い聞かせた。 蛇の脱皮に似た現象がイェッツト・ヴァイサーガに起こる。その下から現れたのは、新品同様の腕だった。 片手で握った斬艦刀で押し返しつつも、再生した腕にガーディアンソードに再び掴む。 下から、一気に切り上げる。だが、肩付近にあったはずの髑髏が独りでに動き出し、ガーディアンソードを咥え込む。 ヴァイサーガの手は、斬艦刀とガーディアンソードでうまっている。 それに対し、ノイ・レジセイアには、両の手と片方の髑髏を使用しても、まだ一つ髑髏が残っている――! ノイ・レジセイアを射線に巻き込まないためか、静かにイェッツト・ヴァイサーガの側面に回り込んだ髑髏が、金色の力を口の中で渦巻かせる。 だが、イェッツト・ヴァイサーガにも牽制程度なら使える力がある。 ざわりと、イェッツト・ヴァイサーガの装甲表面が波立つと、装甲から刃が伸びる。 アキトのコクピット撃ち抜きを防いだ、装甲から精製する烈火刃。ガーディアンソードを手放しあいた手で相手へ投擲。 寸分たがわず髑髏の口の中に吸い込まれた烈火刃が、金色の光と反応し大爆発を起こした。 「その力……『人間』には過ぎた力……」 「化け物だったら持っていいのかよ!?」 目を焼く閃光の中、統夜はマントでどうにか光を遮断する。 どこからか攻撃が来る――しかし目は使いものになりそうにない。ならば、やるべきことは決まっている。 目が見えないのなら、相手の生体波動を追えばいい。統夜は、自分の感覚を信じて光の中拳を繰り出した。 「――そこだッ!」 自分の背後へ放たれる剛の拳。 「おひい」 はっきりしない、もごもごとしたノイ・レジセイアの声。 少女の声色のためか、声だけ聞けば舌っ足らずでとても愛らしいかもしれない。 だが光が収まり、見えるようになった目で何が起こっているかを知り、凍りつく。 再生されているノイ・レジセイアの顔へ、正確にイェッツト・ヴァイサーガの拳は当たっている。 拳はノイ・レジセイアの口の中にねじ込まれている。そう、鋭く長い歯が不均等に無数に並ぶ口の中に。 氷を砕くような音が、中空に響く。 叫びだしたいほどの痛みを、歯を食いしばって抑え、統夜はその拘束から逃れようとする。 これは、まずい。動きが止まれば、次に来るのは当然、髑髏からの砲撃。 それを悟った統夜は、イェッツト・ヴァイサーガの反対の手に持った斬艦刀を巨大化させる。手の力だけで、強引に振り切る。 半円の軌跡は、髑髏とノイ・レジセイアをとらえるコースだったが、ノイ・レジセイアも素早く手から口を離すと斬艦刀を回避した。 ノイ・レジセイアの側には既に二つの髑髏が浮かんでいる。 また再生させたのかとうんざりするが、自分もあまり人のことは言えないかもしれない。 ノイ・レジセイアは後ろに下がってさらに距離を取ると、髑髏の数を一気に十ほど増やした。 合計、十二。先程の六倍の砲撃が、星の中心を揺らす。 イェッツト・ヴァイサーガが第一波を回避するが、すぐさま第二波第三波が轟音とともに髑髏の口から放たれる。 分身を使い正確に回避しながら、接近する手段を、きっかけを統夜は探す。 ノイ・レジセイアはおそらくこちらは遠距離攻撃の手段が乏しいことを気付いたのだろう。 距離を取った上での砲撃を主軸に切り替えて倒すつもりなのか。 砲撃兵器を精製しよう――そういう発想が統夜に浮かぶ。だが、すぐさまその発想は打ち消された。 最初からあるものを、使ってきたものを元通りに戻すのは、あったときの感覚をイメージすればいいが、 後付けで何かを作るとなれば手間もかかるし、きちんと作れる自信がない。 無理に精製したところで、たいしたものにならず、しかも使いこなせないのが落ちだ。 では、統夜が正確にイメージできて、使いこなせる武器は何か。単純明快、剣だ。 「でも剣じゃ……っと!?」 意識が思考に傾いたせいで分身が減っていた。本体に直撃する寸前で砲撃を回避する。 銃は剣よりも強し。確かに名言だと統夜も思う。やってられないくらいに分かりやすい。だが、はいそうですかとは言っていられないのだ。 どうにか、イメージできる範疇で斬艦刀を操作し、砲撃に対処しなければ勝ち目はない。 一気にダメージ覚悟で突っ込むことも考えたが、それは相手が自分より接近戦で劣っている前提があって成り立つ。 このままなら、おそらくダメージを受けたまま再生する暇なく無傷の相手とぶつかり合うだけだ。 ついに、直撃コースに砲撃が入る。しかし、一発だけ。それを受け止めるため統夜は斬艦刀を盾代わりに出した。 斬艦刀に当たった砲撃は、それて別の場所へと飛んでいく。 その時、統夜に電流走るっ……! 逆に考えるんだ。剣で砲撃すればいいと考えるんだ。 そう考えた統夜は、斬艦刀を巨大な姿に変え、一気に後ろに引いて構えた。 一瞬対応を変えた姿を見て、ノイ・レジセイアは砲撃を停止するが、すぐさま再び砲撃を開始する。 紫雲統夜は動かない。 砲撃はまっすぐにイェッツト・ヴァイサーガに殺到する。十本以上の光の柱が統夜に迫る。 「………ここだぁぁぁぁぁ!!」 ギリギリまで引きつけ、イェッツト・ヴァイサーガは動き出す。 目には目を。歯に歯を。ダイヤモンドにはダイヤモンドを。 ならば、砲撃には、砲撃を。 統夜は、一気に斬艦刀を、刃を縦にしたまま振る。統夜がイメージするのは、鏡のイメージ。 それを伝達されて磨き抜かれた鏡のように光り輝く斬艦刀へ、砲撃がほぼ垂直にぶつかる。 野球のホームランさながらに、ノイ・レジセイアの砲撃はまとめて斬艦刀・ミラーコートに撃ち返され、逆にノイ・レジセイアに戻っていく。 ノイ・レジセイアは一瞬身動ぎしたが、すぐに対応に動き出した。 宙に浮かぶ髑髏の影から、髑髏の体が這いずるように現れ、それが本体を守るようにスクラムを組んだ。 骨の盾により、ノイ・レジセイアにイェッツト・ヴァイサーガの砲撃が届くことはない。 だが、そんなことは関係ない。 砲撃をはじいたのは、ノイ・レジセイアを攻撃するためではなく、ノイ・レジセイアを攻撃するチャンスを作るため。 巨大化した斬艦刀を再度振りかぶり、統夜はすでに飛び出している。 虚空を踏みしめ、そこを軸に統夜の斬艦刀が――振り切られない。 統夜の軸足が、一瞬で消滅した。僅かに空間に残るアインストの力の残滓から、空間ごと食われたことが統夜にも分かる。 それでも、どうにか斬艦刀を振る。無様な姿勢からでも、その大質量により生み出される一撃は、骨の盾ごとノイ・レジセイアの片足を断ち切っていた。 飛び出した勢いのまま、イェッツト・ヴァイサーガはノイ・レジセイアに突っ込んでいく。 斬艦刀に振り回された結果ついた横の回転を、そのまま統夜はノイ・レジセイアにぶつける。 ノイ・レジセイアも、足を切られバランスを欠いた状態をすぐさま立て直す。 「いっけえええええええ!!」 両者が、無くなった足を出す。 しかし、それは同時に再生し、突如生み出された質量同士がぶつかり合い、空間をたわませた。 空間が元に戻る反動で、ちょうど二機分ほどの距離が両者にあく。 ――いける。 統夜は確信する。 そう簡単に勝てるとは思えない。しかし、さりとて負ける気がしない。 事実、これまでの攻防でも、ほぼ互角。今の自分なら、誰にも負けない。どんなことでもできる。 「その力……あまりにも惜しい」 「そんなことより、自分の身を心配したほうがいいんじゃないか?」 斬艦刀を突き付けて、統夜はノイ・レジセイアに言い放つ。 しかし、 「確かに純粋な力は今の我に近い……しかし……世界を拒絶するのならば……待つのは消失のみ……」 「あんたに俺が消せるのか? やってみろよ」 「審判を下すのは我ではない。新しい完全なる世界…… それが全てを飲み込む……辿り着けるのは……意思と資格を持つ者のみ……」 髑髏の騎士の片腕が差し出され、掌が開かれる。すると、白い光がその場に放たれた。 白い光をくりぬき、どこかが映し出される。そこにあるのは、大小二つの球体。 その手順は、カミーユに対してやったものとまったく同じ。だが、映し出される光景は僅かに違っていた。 「……な、」 統夜も、アインストに近しい存在、その亜種であるから現れた光景の意味が理解できた。 白く小さな個体の球体にすぐそばには、小さいほうの数千倍ではきかないほど巨大な輝く球体が浮かんでいる。 小さいほうの球体は、 まるで砂粒のように見えるが、実際は違う。 小さいほうこそが、今統夜たちがいるネビーイームであり――輝き続ける球体こそが、新たな世界。 ネビーイームの40kmという大きさが、それほど矮小に見える。 いや、見えるのではなく事実矮小なのだ。単純な大きさだけではない。その存在が持つ力が。在る意味が。 ノイ・レジセイアはさらに言葉を続ける。 「……今、古き世界にいる……全てのものに……告げる……新たなる世界は古き世界のもの全てを飲み込み、塗り替える……」 その時は近い……もはや、止める術はなし………我を倒したところで……宇宙の新生は止まることはない……」 その光景は、その言葉は、生き残った全ての人間へ送られていた。 宇宙の新生をすぐ近くで目の当たりにし、絶望する男にも。 仲間を失い、希望を砕かれ涙を流す少女にも。 混濁した意識の中、それでも歯を食いしばり声は出せずとも足掻く青年にも。 半ば壊れてもなお、主のために這いつくばる不完全な物質にも。 ノイ・レジセイアを前に、互角の力を見せた人在らざる何かにも。 ――平等に、絶望は与えられた。 ■ 火にかけられた鍋がコトコトと揺れる音だけが、部屋に小さく響いている。 広くはあるが質素な木製の家屋は、長い年月そこにあったことを思わせるものの、不思議と汚らしさは感じない。 そこに住む人間同様、ここにあって当然、はるか昔からここにあり続けているという風格を持ってる。 ロジャーは椅子に腰かけ、肘をテーブルについたまま頭を抱えていた。 電話が通じない。今まで何度も何度もかけてきた我が家へ、電話が。もはや、手が覚えてしまっているほど押してきた番号をプッシュした。 しかし、繋がるのは使用されていない場合に流れる機械的なメッセージ。 間違っているのはないかとゆっくり、一つずつ確認しながら押しても、結果は同じ。 「本当に、ここはパラダイムシティなのか……?」 そう言いながら視線を上げれば、そこにいるのはパラダイムシティを作った初期メンバーの一人、 ゴードン・ローズウォーターがシチューの鍋をお玉でゆっくりかき混ぜている姿がある。 小皿に少しだけ赤いシチューを掬うと、一口含んで静かに頷いていた。 「失礼。確認させてもらいたいが、あなたは……その、ゴードン・ローズウォーターなのだろうか?」 ロジャーは、おそるおそる自分がゴードン・ローズウォーターだと思っている人物に問いかける。 既に、ロジャーは自分の記憶(メモリー)がホンモノであるか確証が持てなくなりつつあった。 ゴードン・ローズウォーターと思われる人物は、老人独特のゆっくりとした動きでロジャーへ向きなおす。 相変わらず何を考えているか分からない瞳が、じっとロジャーを見つめている。 「そうだとも。私は君がそう呼ぶ限り、ゴードン・ローズウォーターだとも」 言い方にどこか引っかかりを覚えながらも、自分はゴードン・ローズウォーターであるとの返事にロジャーは安堵する。 ロジャーは、自分の記憶(メモリー)の中からゴードン・ローズウォーターに関しての情報をさらに考え、 ふと思いついたことを問いかけてみた。 「……ゴードン・ローズウォーター。あなたは40年前の記憶(メモリー)を保持した数少ない人間と聞いた。 40年前、人は宇宙を飛んでいたのだろうか? あの空の向こうには、白い星が浮かんでいたのか……」 そう、もしもこの老人が、ロジャーの記憶(メモリー)通り、40年以上前を知っているのならば。 ロジャーの知るあの世界が何なのかも知っているのはないか。 迷いながら、言葉を探しながらロジャーはゴードン・ローズウォーターに問おうとした。 「きみ」 しかし、ゴードン・ローズウォーターはそれを途中で遮り、ゆっくりと、おとぎ話でも語るように話し始めた。 「この街の誰も40年以上前の記憶もってはいない。全ては虚構。偽りでしかない。 かつて君が見つけたあの本も、私が書いたのではなく、夢が私に書くように命じた物語。 世界を破壊する強大なロボット。圧倒的な破壊。全ては偽りだ」 「しかし、事実人々は記憶(メモリー)を断片的ではあるが持っている……!」 叫ぶようにロジャーはゴードン・ローズウォーターの言葉に異論をはさんだ。 ロジャーがメガデウスを操れるのも、ノーマンがそれを整備できるのも、記憶(メモリー)のおかげに他ならない。 そのすべてが嘘偽り、ないとするならば記憶(メモリー)もあり得ない。 あり得ない出来事の記憶を保有することは誰にもできないのだ。 しかし、ゴードン・ローズウォーターは意に介した様子もなく淡々と言葉を続ける。 その様子は、さながら全てを知る賢者にも似ていた。 「なかった。初めから。全て」 ロジャーの脳裏に、ふと一冊の赤いハードカバーの本が浮かぶ。 そう、自分はかつて、40年前の出来事が記されたといわれる、ゴードン・ローズウォーターの書いた本を片手に彼のもとを訪れている。 今まで思い出せなかったはずのその記憶(メモリー)が、はっきりと経験として思い出せる。 「……記憶(メモリー)とは、人の中にあるもの。それ以外はまやかしでしかない」 「しかし……この街の住人は誰もがそれを失っている。だとするならば……!」 「この世界が壮大なるステージだとしたら、我々人間は役割を演ずる役者にすぎない。記憶(メモリー)など必要ない」 全ての記憶(メモリー)は作られたものに他ならず、誰かが配置したものでしかない。 そんなことは、ロジャーにとっても受け入れがたいことだった。なんであろうと自分が自分であることに変わりはないのだ。 どのように生を受けたとしても、一人の人間としての生き方は別なのだ。誰かの決めた脚本を演じたことなどない。 ロジャー・スミスが、ロジャー・スミスとしての意思で選択し続けたからこそロジャー・スミスはここにいる。 それは、揺るがしようのない事実だとロジャーは信じている。 だが、こうロジャー・スミスが考えること自体、誰かが定めたことだというのか? 壮大な虚飾の舞台の上で、踊るだけの書き割りにある登場人物にすぎないのか。 全ては記憶(メモリー)ではなく、設定され誘導するために作られた記録(データ)にすぎないのか。 ゴードン・ローズウォーターは赤いトマトのシチューを皿に注ぐと、木のスプーンとともにロジャーの前に差し出した。 「だが、その役割を変えられるものがいてもいい筈だ。だから私は君に、交渉を依頼したのだよ」 俯くロジャーに、ゴードン・ローズウォーターが言った。 その言葉に、思わずロジャーは振り仰ぐようなかたちでテーブルの側に立つゴードン・ローズウォーターを見る。 「交渉の依頼? 私に? ……失礼だが、私はあなたに依頼を受けた覚えはない。いったい、誰に対しての交渉依頼――」 ロジャーは、自分はネゴシエイターだと思っている。 そして、ネゴシエイターにとって最も重要なものの一つに、信頼があるとも。 依頼者と、ネゴシエイター。ネゴシエイターと、交渉相手。それらの間に信頼関係がなければ仕事は成り立たない。 故に、まだこなしていない仕事の依頼人を忘れることなど決してしない。 それが、ロジャー・スミスの考える、ロジャー・スミスという男に関しての記憶(メモリー)だ。 故に、ロジャーはそれを違え、暴力的な手段を取る相手には―― 「ビッグ、オー……」 そうだ。ビッグオー。 その言葉をひらめいた瞬間、ロジャーの体に足りなかった何かが戻ってくる。 今の自分には、彼が足りない。それが、自分自身の欠落した感覚の原因だった。 ビッグオーは今どこにいるのか。 ――ロジャーはついに思いだした。 ロジャーの様子を見て、ゴードン・ローズウォーターは大きく、ゆっくりと頷いた。 「私は確かに依頼した。この世界を演出する存在と交渉してもらいたい、と。そして、君はやり遂げた」 ロジャーは、襟を静かに正す。 ロジャーに記憶(メモリー)はない。本当に自分自身が誰なのか分からない。 だが。 記憶(メモリー)がなくとも。 過去を確認できなくとも。 自分という存在を。 ―――ロジャー・スミスは確信している。誰でもない、自分自身が。 ロジャーは名乗ることができる。自分が今、何者なのか、誰であるのかを知っている。 ロジャーは背筋を伸ばす。誰にも己の存在を恥じず、迷わず、答えられる。 ゴードン・ローズウォーターの手には、一冊の赤い本が握られていた。 他でもない先程ロジャーが思い出した、ゴードン・ローズウォーターの書いた御伽噺(おとぎばなし)。 「もう、これは君に必要ない」 黒い手袋をしたロジャーの右手に、ゴードン・ローズウォーターはその本を握らせる。 赤かったはずの本は白い表紙の本になっていた。題名(タイトル)も、著者も刻まれていない。 中もまた、全てのページに何も書かれていない。白い、なにもない一冊の本。 「――ありがとう。君の役割は、君が決めたものしかない。君が望むのであれば、君はあり続けられる。 この街の誰もが、過去をなくしてもそうやって生きることができるのだよ。 私は、君の名前を呼ばない。もう一度、君の名前を教えてくれ」 ゴードン・ローズウォーターからの問い掛けに、ロジャーは、一音ずつ確認しながら正確に答えを返す。 「私の名はロジャー・スミス。この記憶喪失の町には、必要な仕事をしている」 ゴードン・ローズウォーターは満足げに一度うなずくと、左手でシチューを指した。 「それは君が持ち込んだ、ここにはあり得ない花の種だ。元の場所に返してきてほしい」 目の前にあったのは、もうトマトのシチューではなかった。 青く輝く、カッティングされた宝石がなみなみと盛られている。 ロジャーは、それを知っている。それは、凰牙の収納スペースに積まれていた、種に似た謎の宝石に間違いない。 ゴードン・ローズウォーターが持っていた赤い本と赤いトマトは、ロジャーの手の中で白い本と青い種に変わっていた。 左腕の袖を捲り、白と黒のモノトーンから成る腕時計を口元へ。 しかし、やろうとしているのは、家への通信ではない。自分が何故こんなことをするのか、過去のないロジャーには分からない。 だが、こうすることが正しいと、ロジャーは知っている。 自分の運命を自分で選ぶと決めた自分が、自分として生きていくために、ロジャー・スミスは選択する。 白い本は、黒い本へさらに変わる。 表紙に刻まれた題名(タイトル)は「negotiator」、著者は――ロジャー・スミス。 魂を震わせて力の限り呼んだ。ロジャーは自分の相棒の名を。それは――― 「ビィィッグオーーーゥ! ショォォーーウタァァァァーーーイム!!」 ■ →ネクスト・バトルロワイアル(4)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/351.html
□ 「エネルギーが半分切った! 甲児、もっと抑えて!」 「無茶言うな! 手加減して何とかなる相手かよ!」 狭いストレーガにはのコクピットで二人の少年が怒鳴り合う。 兜甲児、キラ・ヤマト。一度は銃を手に向き合い、今は何故か呉越同舟の身。 甲児は真ゲッターの動きを止めようと躍起になっているものの、元々のパワー、そしてスピードが違いすぎる。 ネリー・ブレンに乗るアイビスの回避が間に合わないときに割り込んでいくのも、そろそろ限界だ。 そして二人を焦らせている理由はもう一つ。 先程シャギアに通信したときに出た名前、ユーゼス。 ブラックゲッターがこの戦場にいたことから予想はしていたものの、まさかシャギアを援護しているとは思わなかった。 それでもカミーユから事のあらましを聞いたキラは確信した。何か裏があると。 突如使えなくなった通信回線をいじりつつ、説明を求める甲児に叫び返す。 「おい、ユーゼスさんとアキトさんが敵ってどういうことだ!? あの人達は主催者に反抗してるんだぞ!」 「僕の仲間が襲われたんだよ! それに、主催者に反抗してるからって安全な訳じゃない……他人を利用するためだってこともある!」 甲児も彼らと接触した一人だ。その印象は良いものであったからこそ、キラの言葉がにわかに信じられない。 しかし現実、アキトが駆るブラックゲッターはシャギア、クインシィ、そしてロジャーと交戦している。 半信半疑そうではあるが、とりあえず『味方ではない』という程度の認識は甲児にも伝わった。 ともあれ突如濃くなったミノフスキー粒子に手を焼きオープン回線で伝えたものの、シャギアからの応答はなく。 様子を見に行きたいが、もしストレーガがここを離れればアイビスが窮地に陥る。 そんなジレンマの中、索敵を続けていたキラは予想が最悪の形で的中したことを悟る。 ヴァイクランが黒煙を吹き上げ、膝をついていた。 その近くでネゴシエイター操る騎士凰牙と、巨大な天使が交戦している。 ヴァイクランが止めを刺される前に、ブラックゲッターを追ってきたロジャーが割って入った結果だ。 マスターガンダムはブラックゲッターと激しく交錯している。そちらは今は手を出さなくても良さそうだ。 そして、遅まきながらもバサラの歌が聞こえないことに気付く。 もしやユーゼスが、と想像はどんどん悲観的になる。 とにもかくにも、クインシィをなんとかしなければ――焦りだけが膨らんでいく。 「ダメ――もうバイタルジャンプを続けるエネルギーがない!」 アイビスの悲鳴。小柄なブレンの最大の武器、短距離転移が使えないという知らせ。 ソシエ操るガナドゥールも限界は近いのか、放たれる攻撃の頻度は減っている。 臍を噛む。何故、自分はただ見ているだけなのか――力が欲しいと、キラは強く願う。 接近警報。 新手かと真ゲッターに集中する甲児に代わり、サブモニターを確認。 そこに映っていたのは―― 「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」 小さな影が、止める間もなく真ゲッターとネリー・ブレンそしてストレーガが入り乱れる空域に突っ込んできた。 その影――なんと生身。 飛行形態になったぺガスの上で、ガロード・ランという少年が強風にその身を晒し、両手を広げ真ゲッターの前に立ちふさがった。 「あいつ……ガロード!?」 上ずった甲児の声。キラも、アイビス、ソシエも同じ気持ちだった。 プラズマや熱線、ビルをも粉砕する拳が入り乱れる戦場に生身で乱入するなど正気の沙汰ではない。 「止めるんだ、お姉さん。この人達は、お姉さんの探してる勇じゃない!」 そんな驚愕をよそに、ガロードは真ゲッターを駆るクインシィに語りかける。 「お前……ガロード! 自分が何やってるかわかってるのか!? そんな危ない真似をして!」 「危ないって言うならお姉さんの方がよっぽど危ないよ……とにかく! 止めるんだ、お姉さん。お姉さんのやってることは間違ってる!」 「だ――黙れ! そのブレンはユウのブレンだ! だったら、ユウが乗ってなきゃおかしいだろう!?」 「だから私はアイビスだってば! 人違いなの!」 「うるさい! だったらそのブレンだけでも壊すんだ! そうすれば、戦う力のなくなったユウなんて簡単に……!」 「お姉さん!」 「うるさい――どくんだ、ガロードっ!」 真ゲッターが、拳をぺガスに――そこに立つガロードに突きつける。 このままでは彼が危ない。キラと甲児はそれをアイコンタクトでアイビス、ソシエに伝える。 二人は頷き返してきた。 真ゲッターが動く瞬間取り押さえようと、神経を緊張させる―― 「みんな、大丈夫だ。手を出さないでくれ」 が、当のガロードから制止の声がかかった。 何か策があるのかと、息を呑んでその挙動を見守る。 「お姉さん――俺の言ってることが、信じられないかい?」 「ガロード……他のことならまだしも、これだけは譲れない。邪魔をするなら――」 「――するなら、俺を殺す? でもダメだぜ、お姉さんに俺は殺せない。何故なら――」 滞空するぺガス。ガロードはその淵に立ち―― 「アーイ、キャーン……フラァァァァァァァァァァァァイッッ!」 飛び降りた。 「……なっ!?」 呟きは誰のものか――おそらくは全員だろう。 ガロードの身体は天空から真っ逆さまに落ちていく。 ストレーガが動こうとした。甲児だけでなく、アイビス、ソシエもまた同時に。 だがそれよりも早く―― 「ガロードォォォォォォォォォォッッッ!!」 真ゲッターが、残像すら残しかねない速さでその後を追った。 ガロードを追い越し、地面に激突する寸前でオープンゲット。 真ベアー号のキャノピーが開き、間一髪でそのシートがガロードの着地点となる。 ゲットマシン三機が足並みを揃えて旋回する。その内部で、 「いてて……た、助かったぁ……」 「ガロードッ! お前、お前――馬鹿かっ!」 「うわ、やっぱり怒ってる……」 クインシィが、鬼の形相でガロードを怒鳴りつけていた。 「待ってよ、お姉さん。俺的にここはよく助かったっていう感動の――」 「黙れ! あんな危ないことをしておいて何が感動だ! 私が動かなかったらどうするつもりだったんだ!」 「――でも、お姉さんは動いた。復讐よりも俺の命を助けることを選んだ。だろ?」 「そ、それは……」 「言っても分からないだろうって思ったからさ。でも、良かったよ。もしかしたら見捨てられるかと思った」 「……私が、お前を見捨てるはずはないだろう……馬鹿」 それきり、不貞腐れたように黙るクインシィ。 ホッと、ガロードは息をついた。賭けだったが、何とかクインシィを落ち着かせることはできたようだ。 見守るストレーガに通信を入れる。 「甲児、何とかなったよ。お姉さんは落ち着「お前は馬鹿かッ!!!!」 途端、怒鳴り声がコクピットを満たす。甲児一人のものではない――他に知らない声が三人も。 「何考えてんだこの馬鹿! 死ぬ気かこの馬鹿! ええと、とりあえず馬鹿野郎!」 「アンタ何考えてんのよ馬鹿じゃないの!? 馬鹿、この馬鹿!」 「声は老けてるくせに頭の中身は空っぽじゃないのこの馬鹿! 私寿命が縮まったわよ!」 「君はば……いや、ええとみんな落ち着いて。とりあえず怒るのは後にしよう」 最後の一人、少年は自分以外の三人の声に押されたか怒鳴ることなく提案した。多分他の面々の剣幕に引いていたのだろうが。 「ガロード……だよね? 僕はキラ・ヤマト。アムロさんから話は聞いてるよ」 「あ、ああ。そんなに怒らなくても……い、いえ! 何も言ってません!」 ぼやくガロードは途中でクインシィに睨まれた。 「アムロさんから? ああ、よろしくな! 俺はガロード・ランだ! とにかく! お姉さんはもう大丈夫だ! ……だよね?」 「ふん」 モニターの向こうでクインシィがそっぽを向く。機嫌を取るのには苦労するだろうが、少なくとももう暴走はしないはずだ。 「よし、じゃあシャギアさんとロジャーさんを助けに行こう! 甲児!」 「あいよ!」 キラの号令を機に、ストレーガ、ガナドゥール、ネリー・ブレンときて殿に真ゲッターがつく。 すぐに騎士凰牙は見つかった。何しろラーゼフォンの巨体は目立つ。 「ソシエ、アイビスと一緒にシャギアさんの様子を見てきて。クインシィ……さんは、僕らと一緒にロジャーさんの援護をお願いします」 「……」 「お姉さん」 「……わかってる! 私に命令するな!」 キラの指揮のもと、ストレーガ、真ゲッターがラーゼフォンへと向かい、損傷のひどいガナドゥールとエネルギーの心許ないネリー・ブレンがヴァイクランを救助することになった。 離れていくストレーガと真ゲッターを見送り、二人の少女はヴァイクランへと急ぐ。 機体前面を走る太刀筋――が、強固な装甲が幸いしたかコクピットまでは届いていない。 外から呼びかけるも反応がない。 アイビスがブレンに命じてヴァイクランのハッチをこじ開け、気絶したシャギア・フロストを強引に掴み出した。 ソシエがコクピットから出て、シャギアの頬を張る。 数回平手が往復したところでシャギアは目を覚ました。 「う……う、うん? 君は、誰だ?」 「後にして! 早く乗って、行くわよ!」 と、足がおぼつかないシャギアに肩を貸してガナドゥールのコクピットへ。 ヴァイクランはまだ動くかもしれないが、この乱戦の中では安全とは言えない。 戦力は減るがこちらで保護した方がいいという判断。 「少し揺れるけど、しっかり掴まってて」 「う……うむ。すまんな」 「ソシエ、一旦引くよ。ナデシコまで後退しよう」 「わかったわ」 そしてネリー・ブレンとガナドゥールが後退する。 一方、ラーゼフォンを前にした甲児達。 「ゲッタァァァァビィィィイイムッ!!」 騎士凰牙を捉えんとするラーゼフォンの前に真ゲッターの放つ光線が割り込んだ。 「ロジャーさん!」 「キラ君か!? 彼女は大丈夫なのか?」 「ええ、もうクインシィさんは大丈夫のはずです」 モニターの中の真ゲッター。二人が乗ったことで、先程よりずっと鋭い動きでラーゼフォンへと挑みかかる。 ガロードというバランサーを得たクインシィは安定している。とりあえず心配はいらなそうだ。 ストレーガがライトニングショットで後方から援護する中、キラはロジャーとコンタクトを取っていた。 「済まんな、依頼された交渉を果たせずに……Mr.ネゴシエイターが聞いて呆れる」 「この状況じゃ仕方ないです……それより、今のことを考えましょう」 「うむ。とりあえずはだ、ガウルンには交渉の余地はない。私はやつは排除するべきだと思う」 「話には聞いてましたが、あの人はたしかに危険です。僕もその意見には賛成です。 ……けど、ロジャーさん。ユーゼスとアキトって人はどう見ますか?」 あえて自分の知る情報は伝えず、ロジャーからの率直な意見を聞こうとするキラ。 甲児も援護を行いつつ、聞き洩らさないように何度も振り返っている。 「アキトは……彼が戦いに乗っているのは私にも責任がある。できれば止めたいところだが、今の彼は危険だ。君達は自分の安全を優先するんだ。 そしてユーゼスだが、何を考えているか……そうだ、ガロード・ラン! 彼は無事か!?」 「あ、はい。今はそのロボット……真ゲッター? はい、真ゲッターに乗っています」 甲児から補足を受け、答える。 「そうか、良かった……後は、あの歌っていた男か」 「バサラさんですね。やっぱり、ナデシコで何かあったんでしょうか」 「かもしれん……くそっ! これまた私のミスだ、情けない!」 ガツ、と何かを殴る音。紳士然とした男が相当苛立っているのがわかる。 「えーと、つまり。ユーゼスさんもアキトさんも、敵ってことなのか?」 「甲児は二人に会ったことがあるって言ったよね。その時どんな話をしたのか知らないけど、よく無事だったって思うよ」 「ブンドルさんがいたからかな……くそ、俺は騙されてたってことかよ!」 「二人とも、済まないがここは任せる。私はナデシコの様子を見に行ってくるよ。この腕では君達の足手まといにもなりかねんしな」 騎士凰牙が後退する。行く先はナデシコの方角。 「ようし、じゃあ俺達はユーゼスさん――いや、ユーゼスをとっちめるぜ!」 「待って、甲児。ガウルンとアキトさんが気になる。迂闊に前に出ないで」 「ああん? ここで待ってろって言うのかよ」 「そうじゃなくて、いつでも不測の事態に対応できるようにしておこうってこと。クインシィさんなら僕らが手出ししなくても大丈夫のはずだし」 「……ちぇっ、わかったよ。一旦下がって、警戒に集中する」 いつの間にか甲児はキラの言うことを素直に受け入れるようになっている。 信頼されているということなのか、非常時だからか――キラにはわからないが、それでも悪い気はしない。 ビルの上に陣取り、この戦場に散らばる全ての存在に気を回す。 ガウルンはアキトと交戦中、ユーゼスはクインシィとガロードが抑えている。 今のところこちらの脱落者はなし――バサラだけが安否不明。 数としてはこちら――敢えて言うならナデシコ組+αが勝っているが、どうにも嫌な予感が消えない。 キラも、そして甲児も。まだ何かが起こる、それを感覚として感じ取っていた。 □ ゲッターの様子がおかしい――ガロードはそう言った。 どういうことだと聞くクインシィに、あの機体と戦い始めてからだとガロードは答えた。 あの機体――ラーゼフォン。 そう、ラーゼフォンと戦い始めてから、真ゲッターは操縦者たるクインシィとガロードの知らぬところで出力を上げ続けている。 まるであの機体に共鳴しているかのように。 「とにかく、不具合はないんだろう!?」 「ああ、戦う分には問題ない。むしろ調子は良いくらいなんだけど……」 だったら問題はない、とクインシィは断定した。 ガロードも不可解ながらもそれに賛成する。今は敵を倒すことが先だ。 そして対するラーゼフォン、それに接続されたメディウス・ロクスのコクピットの中。 ユーゼスもまた、事態が己の知らぬところで転がり始めたと歯噛みしていた。 (チッ……ガロード・ランか。やはりあの程度では死ななかったようだな。止めを刺さなかった私の不手際か) 墜ちてゆくぺガスを見たとき、あれでは助からんと放置したのがまずかった。 やつはまんまと生き延び、目前の真ゲッターを安定させ、三つの戦いの内一つを終息させこうして向かってきている。 そして――この真ゲッターと戦い始めてから何かがおかしい。 奇しくもクインシィとガロードが囚われたその疑問に、ユーゼスもぶつかっていた。 真ゲッターが謎の出力上昇なら、こちらのAI1は異常活性化だ。 撃ち合うたび、すれ違うたび――AI1の中で何かが蠢いている。 それが何かは分からない。だからこそ、苛立たしい。 とにかく、目前の敵の撃破を。それもまた、相対する敵手と同じ思考。 (何をやっている、テンカワ! さっさとそいつを始末して援護に来い……!) 更に不愉快なことにアキトは通信回線を遮断している。ガウルンとの戦いの邪魔をするな、ということだろうが。 そのアキトは離れたところでガウルンとの決闘まがいの戦いに興じている。援護など期待できそうもない。 結果的にユーゼスは一人でこの真ゲッター、そして時折り光弾を放ち援護してくる兜甲児の機体と交戦することになっている。 そう、兜甲児――こいつもネックだ。 本来ユーゼスにはあそこでヴァイクランを攻撃する意図はなかった。 装甲に散見されるズフィルードクリスタル、そしてガンスレイヴ――カルケリア・パルス・ティルゲムを用い制御する自働砲塔。 ユーゼスの知らない、だが紛れもないバルマー製の機体。だが相性で言えば、参加者に支給されたどんな機体よりもユーゼスに合うはず。 このヴァイクランこそ、自らと同じ性を持つ科学者が建造し、その息子たる人工サイコドライバーが操る機体――つまりはゴッツォ家の怨念の結晶なのだから。 故にこのラーゼフォンの次に乗る機体として目をつけていたのだが。 甲児の機体に同乗しているあの少年――キラと言ったか。あの少年がオープン回線で叫んだ一言、あれがまずかった。 テンカワ・アキトと組んでいる―― ユーゼスが敵だと言われるのならまだ誤魔化しようがあったものの、ブラックゲッターの進路を譲ってやったばかりの時にああ言われては自分からそれを証明してやったようなものだ。 そこから先は咄嗟の判断だった。撃たれる前にヴァイクランを無力化――パイロットはおそらく生きているだろう。 まったく、腹立たしい――バサラといいガロードといいキラといい、思うようにいかないことばかりだ。 真ゲッターの拳を五大剣で受け、払う。凄まじい圧力。 紫雲統夜から剣を借りておいたのが幸いした。これがなければとうに撃破されていたろう。 とはいえ現状、打つ手がないことに変わりはない。 アキトがガウルンを撃破することを信じ、ここは待ちの一手しかないだろう。 (私が他人をあてにするとはな……この代償、高くつくぞ) ここにいる全ての者に支払わせる。そんな暗い決意をよそに、レーダーが新たな反応を示す。 真ゲッターから注意を解かないまま横目で確認する。 そこにいたのは―― □ ナデシコに一見して変わった様子はない。 それを見たロジャーはだが安心しない。あの中にバサラがいるかどうか、それをまず確認してからだ。 倒れ伏すマジンガーZを遠目に廃墟を駆け抜ける騎士凰牙。 幾度か角を曲がったところで、後方から奇妙な音を聞いた。ギターの音のような。 振り返らせると、はたしてそこには疲労困憊といった体のバサラがいた。 「君は……無事だったか!」 コクピットから飛び降り、その肩を支える。息が荒い。あちこち怪我もしているように見える。 「私の名はロジャー・スミス。甲児君やキラ君、シャギア・フロストの仲間と思ってくれていい」 「……ッ、……は」 自己紹介するロジャーに、応えようとしたバサラが己の喉を押さえて首を振る。 次いで地面に、転がっていた石で字を書き始めた。 『俺は熱気バサラ。悪いが今は声が出ないんだ』 「声が……ふむ、了解した。とにかく無事でよかった。さあ、乗りたまえ。安全な所まで君を送り届けよう」 と凰牙に乗るように勧める。だがバサラは首を縦に振らず、代わりに今も爆音響く戦場を指し示した。 「あそこに連れて行けというのか?」 YES。そう字を書くバサラ。 「何を馬鹿な……機体のない君が行ってどうするというのだ」 『決まってるだろ、歌うんだよ!』 書かれた文字を見て、ロジャーは目を疑った。 喋れもしないくせに歌うとはこれ如何に。この男は狂っているのか、と思った。 だがバサラは至って真剣な目で、 『俺には歌うことしかできねえ。だからどんな所でもどんな時でも歌い続ける。そうしなきゃ、俺が俺でなくなっちまう』 と綴った。 ロジャーはバサラの決意が並々ならぬものであると悟る。何となれば、それはロジャー自身が交渉に臨む心構えに通じるものでもあった。 「なるほど君の信条は大したものだ。だが、実際問題として声が出ないのはどうするつもりだ? それでは歌うも何もないだろう」 というロジャーの問いかけに、バサラは懐から一錠の錠剤を取り出した。 しばらくそれを複雑そうな眼で眺め――やおら飲み込んだ。ロジャーがそれは何だと聞く間もない。 錠剤を嚥下する――そしてすぐ。 「……!? ガッ――ハァっ! あぐっ……あああっ!」 バサラは身を折り苦しみ出した。取り分け喉を押さえている――まるでそこが痛みの発生源とでも言うように。 「おい、どうした!? しっかりしたまえ!」 まさか毒でも飲んだのかと、軍警察時代に習った応急処置法を必死に思い出そうとして、 「――いや、何、でも……ない。気に、しないで……くれ」 と、バサラ本人が制止した。紛れもない、『バサラ本人の肉声』で。 「……喋れるのか?」 「……ああ、たった今から、な。まだ少し違和感があるが……大丈夫だ。これで歌える。 あの薬、効果は本物だった、みてえだ。少しは、あの仮面野郎にも……感謝しないとな」 ロジャーにはいまいちよくわからない独り言をつぶやく。 「さあ……行こうぜ、ネゴシエイター。俺達の歌を、この戦場に響かせによ!」 バサラが先に騎士凰牙へと乗り込む。あの様子では機体を奪って行きかねないと、ロジャーも慌てて乗り込んだ。 その身がどれほど傷つこうとも、己の道を外れることないその生き様。 現実というしがらみに囚われるロジャーには、何よりも眩しいもの。 同時に、こうありたいと思う。いや、自分はこうであったはずだ。 ひたすらに己の法を追究し、言って分からぬ者には鉄の拳を叩き込む――それも、交渉の一側面。 行く先を変え、戦場へと舞い戻る騎士凰牙。 ロジャーの傍らで、バサラがギターを掻き鳴らす。 「行くぜぇ……! 俺の歌を聴けええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」 狭いコクピットで歌い出したバサラ。 (これはドロシーのピアノよりも厄介だ……!) 当然騒音に耳をつんざかれるネゴシエイターは、そんなことを思ったとか思わなかったとか。 □ 再び、戦場に歌が響く。 ただし発信源が違う――ネゴシエイターの駆る、騎士GEAR鳳牙だ。 ガロードだけでなくバサラまで生きていた。その事実は一層ユーゼスの神経を逆撫でする。 そもそもあの男は喉を痛め歌えなかったはずだ。気合や根性でどうにかなるものではない、だとするなら―― (そうか、飲んだのか、アレを! 貴様もテンカワと同じくナノマシンのキャリアになったという訳か!) 貴重なサンプルの一つ――だが、アキトだけでなく健常者が服用すればどうなるかという絶好のケースでもある。 惜しくはなかった。とにかく、ナデシコだけでなくやつも確保せねばならない。 接近してきた真ゲッターを蹴り飛ばす。死角から飛んできたプラズマ弾は五大剣で撃ち落とした。 バサラの登場は敵にも、そしてユーゼスにもなんら戦力という点では変化をもたらさなかった。 ネゴシエイターは同乗するバサラを気遣っているのか積極的に仕掛けては来ず、ストレーガも同様。 前に出すぎると真ゲッターの邪魔になるという理由もあったのだろうが。 何にしろアキト待ちの状況は変わらない。 しばらくこの苦境が続くとユーゼス自身予測していたが―― 「戻って来いラーゼフォン! お前はそんなやつに使われるために生まれたんじゃねえ! また俺と一緒に歌おうぜ!」 バサラの声。歌の途中でラーゼフォンに呼びかける。 最初は鼻で笑った。この機体は既に死に体だ。そんなことをしたところで反応などするはずがないと。 だが、違った。 AI1の中で何かが激しく暴れ回っている――呼応するかのようにラーゼフォンの浸食し切れていない部位から続々とエラーが発生した。 抗っている――何かと、ラーゼフォンが。 「馬鹿な……AI1、何が起こっている!?」 Ai1の示す回答――解析不能。如何に希代の天才とスーパーAIとはいえ、理解不能の現象については有効な手段は持ち得ない。 その間も、バサラの歌は響き続ける。 「俺達、いいコンビだったじゃねえか! お前も戦いなんかより自由に歌いたい、そう思うだろ!?」 ラーゼフォンに意志があると疑いもしないバサラ。少しづつではあるが――AI1が征服した箇所が奪回されつつある。 湖から引き揚げたとき、ラーゼフォンは完全に死んでいた。メディウスと繋がることによりかろうじて息を吹き返したのだ。 そして今、ある程度力を取り戻したラーゼフォンは、今度はバサラによって意志を――魂を吹き込まれつつある。 一切の迷いない、純粋に歌いたいという意志のみを凝縮したバサラの言葉。 「……ええい、黙れッ!」 バサラを黙らせんと騎士凰牙へと突撃する。だが、その目前に真ゲッターが割り込み、腕を伸ばす。 左腕と、胴体――メディウス・ロクスのコクピットを直接を押さえられる。 そして瞬間、メディウスと真ゲッターが繋がる部分が輝きを放つ。 ドクン、ドクンと。まるで血流のようにエネルギーのラインが走る――接続した? 真ゲッターが放つゲッター線は先程から高まり続けている。その勢いは外部からでも観測できるほどだ。 溢れ出すゲッター線が、AI1にも流れ込んでくる。 呼応するようにラーゼフォンの制御が危うくなる。 そして―― (いかん……! このままではコントロールが――) 「何度だって言ってやる! 来い、ラーゼフォン! 歌おうぜ――俺と、お前の歌を! 世界を、銀河を――全てを変える歌を!」 騎士凰牙のコクピットをバサラが放つ光が満たす。 それは、正しき時空で発現すればアニマスピリチアと呼ばれた力。 観測したAI1が解析しきれず停止――その瞬間。 抑えのなくなったラーゼフォンが剣を放り出し―― 真理の目が、開いた。 『ラァ――――――――――――――――――――――――――――――――――――……!』 ラーゼフォンの左腕が勝手に伸び、真ゲッターの腹部へと押し当てられる。 ユーゼスは知らないことだが、そこは真ジャガー号のコクピット。今は誰もいないはずの。 AI1が警告を発する。 メディウス・ロクスのコア部分からエネルギーの流出が認められる――それは腕を伝い真ゲッターへと流れ込んでいく。 数秒ほどエネルギーの流出は続き、やがて唐突に消える。 ラーゼフォンは腕を戻し――メディウスを掴んだ。 (何だ……!? 一体何が起きた? ラーゼフォン、いやメディウスから何が出て行ったのだ!? ) ラーゼフォンが腕に力を込める――侵食した個所を砕きながら、バリバリとメディウスが剥がされていく。 (ラーゼフォンがメディウスを排除しようとしている!? 馬鹿な――) ドン、とひときわ大きな衝撃の後、モニターが黒く染まる。 次いで浮遊感――もぎ取られたと直感する。 コクピットの外、ラーゼフォンが掴み取ったメディウスのコクピットを振りかぶり――大きく放り投げた。 「こんな馬鹿な事がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ――――!?」 あらぬ方向へと、メディウス・ロクスのコアはユーゼス諸共飛んで行った。 それきり、ラーゼフォンが動きを止める。 そして真ゲッターからガロードの声が漏れる。 「お姉さん! 真ジャガー号のコクピットに、誰かいる!」 「はあ!? 何を馬鹿なことを……!?」 「ほんとだって! 今、画像を……!」 「よう、しばらくだなガキども。中々楽しそうじゃねえか」 ガロードの声に割り込んだのは、この場にいるはずのない者の声。 ガロードは、そしてクインシィは知っている。その名は―― 「まさか、貴様は――――――――流竜馬か!?」 【流竜馬 搭乗機体:真ゲッター1(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日) パイロット状態 :蘇生】 →世界を止めて(1)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/82.html
我が道を往く人々 ◆IA.LhiwF3A 「……ったく、最後まで聴かずに行っちまうのかよ」 彼方へと飛び去っていく蒼き鷹の背中を眺めつつ、機械仕掛けの神を操る現奏者、熱気バサラは呟いた。 元よりレクイエムなど柄ではなかったが、歌の途中で観客に帰られてしまうというのは、やはり空しいものがある。 戦場であろうと、殺し合いの場であろうと、その深層心理が変わることはない。 熱いハートを叩きつける、それが歌だ。憎しみも、悲しみも、全てを取り払える力が、歌の中には存在する。そう信じるから、バサラは歌うのだ。 思い返すのは、先刻の、蒼い機体に乗っていた少年。 結局、バサラは彼の名前さえも知らないまま、別れることとなってしまった。 分かっていることは、彼にはニコルという名の親友がいて、その親友をキラという名の何者かに殺されてしまったという、酷く客観的な事実のみ。 復讐などという、いささか穏やかではない思考に囚われていた彼の心へと、果たして自分の歌は響いただろうか。 自分の歌は、自分のハートは、彼の心を覆い尽くしていた雲を、晴らすことが出来たのだろうか。 『この歌は……葬送曲?』 その呟きだけが、バサラにとっての判断材料。あの歌に籠められた意味を理解してくれただけでも良かったと、とりあえずはそう思うことにしよう。 ――焦んなよ、オレ。ライブはまだ始まったばかりだぜ。こっからだ、こっから。 気付けば、視線の先には虚空が広がるばかりで、バーニアを吹かして飛んで行ったファルゲンの姿はすっかり見えなくなっていた。 神秘的な印象を与えるラーゼフォンのコックピットの中、バサラは操縦桿へと手を伸ばし、機体を飛翔させる。 まだ見ぬ参加者達へと、己の歌声を届けるために。イカれた世界のイカれた争いごとを、終わらせるために。 密集する木々の中、殆ど無理矢理と言った感じにボディを捻じ込み、マシンらしからぬ、 胡坐を組むという器用な体勢で座り込んでいる、漆黒の機体があった。最も、この機体にとっては容易い姿勢であるのだけれど。 動く気配は微塵もなく、その様子を人間に例えるならば、じっと息を潜め、外敵から身を隠しているとでも言うべきか。 事実、その通りだった。先刻の戦闘によって肉体へと蓄積した疲労は思いの他大きかったようで、 ベストのコンディションを取り戻すまでには、もう暫くの時間を要さなければならない。 忠実な競走馬は鞭さえ打てば駆けてくれるが、ゲームの開始早々からそうまでして己を苛め抜きたいとは、到底思わなかった。 ――何しろ、俺は根っからのサディストなんでねぇ。 「クク……ハハハハハ」 マスターガンダムのコックピットの中、機体と同じ格好で胡坐をかいて座り込み、大袈裟な笑い声を上げている男の名は、ガウルン。 三対一の劣勢からまんまと逃げおおせることが出来た今は、他から捕捉される可能性の少ない密林の奥へと機体を隠し、こうして休息を取っている。 機体は他者から見れば無防備極まりない姿をしているだろうが、当然警戒は微塵も怠っていない。万が一発見された場合も、 この機体の機動力があれば即座に離脱は可能だ。自身の体力がそこまで持てば、という仮定付きではあるが。 それにしても、面白い。最高だ。いやまったく、この状況で笑わずしていつ如何なる事態において笑えばいいというのだろう。 得体の知れない化物が、余命幾許もない自分をわざわざ呼び寄せ、何かと思えば『殺し合いをしろ』と来たものだ。 言わば、今の自分は死刑宣告を二度も言い渡されながら、監獄の中で自由の身を許された存在。不運なのか幸運なのか、さっぱり分からない。 まあ、人生最後の晴れ舞台には相応しいと言えよう。ASを遥かに上回るポテンシャルを持った玩具で、存分に暴れまわることが出来る世界。 惜しむらくは、呼び集められた最初の空間において、我が最愛のカシムの姿が見当たらなかった事だが――上質の餌は、幾らでもいる。 それら全てを食い尽くした上で、仮に元の世界へと帰ることが出来た時の最高の御馳走として、彼は取っておくことにしよう。 「愛してるぜぇ、カシム……おぉ?」 懐かしのアフガニスタン、愛するハニーがこんなことを言っていたのを思い出した。『獲物を前に舌なめずりなど、三流のすることだ』と。 余裕を見せ付ける暇があるなら、即座に敵を殲滅しろ。あの堅物はそう言いたかったのだろうが、そうやって頭の中身まで軍曹様でばかりいるから、 ラムダ・ドライバの一つもお前はまともに扱えないんだよ――話が逸れた。 とにかく、今のガウルンは、相良宗介軍曹に言わせれば『三流』の兵隊だった。 たった今視界に入った、獲物――熱気バサラの駆るラーゼフォンを目の当たりにして、歓喜の笑みを浮かべ、唇を確かに一舐めしていたのだから。 さて、向こうは今のところ、こちらの存在には気が付いていないらしい。緑の陰からひっそりと、対象が持つ戦力を見定めてみる。 携行火器は見る限り無し。しかし、機体のサイズがこちらと比べて二回りは違うことから、内蔵武器の存在は充分に想定すべきだろう。 気に掛かるのは、チェーン・ガンなどの機関砲を搭載しているのなら、当然その発射口が存在して然るべきなのだが、それが見受けられないことだ。 単なる図体のデカいパワー馬鹿の類なのか、或いはラムダ・ドライバのようなトンデモ兵器を隠し玉にしているのか。 メカの分際で天使の羽なんぞを頭に生やしている奇天烈なデザインが、何となく後者を連想させた。 殺し合いの舞台に、天使様が混ざり込んでいるとは、実にふざけた話だ。いっそそのまま天まで飛んでいって、勝手に召されてくれればいいと思う。 外観から想像出来るのは、この程度か。如何せん、ガウルンのいた世界のマシンとは雰囲気がまるで異なるため、判断材料が少なすぎるのが痛い。 対して、我らがマスターガンダム。接近戦を仕掛けることが大前提とはいえ、この機体は実に奇襲向けの運動性を持っている。 操縦方法からしてASの常識とはかけ離れているこのマシンの性能を、フルに引き出せているかどうかはガウルンの知ったところではない。 が、強力な機体である事は間違いない。ラムダ・ドライバとはまた別物の、感情を糧にするシステムも積んでいるという。使いこなす事が最低条件だが。 正直なところ、それらの情報を全て抜きにして、身体さえ本調子ならば即座にショータイムの始まりといきたいところなのだが、 大病に侵された影響が未だ残っている手足と、先刻の戦闘から微かに残っている懸念とが、その判断を鈍らせてしまっている。 戦場での躊躇は命取りとなる。そんな事は一々考えるまでもなく、常識を越えた領域でガウルンの中に根付いてはいたのだが―― ――それも、こいつの影響だってんなら、お手上げだな。 ガウルンの懸念。それは、カテジナ達から撤退し、この密林に潜り込んだ時に気が付いた、マスターガンダムに起こっている『異常』。 大した損傷ではなかったが、あの戦闘で確かに、この機体は幾多の銃弾を受け、装甲に傷を負っていた筈なのだ。 しかし、それがいつの間にか消えてなくなっていた。弾丸を打ち払った拳に、戦闘の痕は微塵も残っていなかったのだ。 この機体に乗り込んだ時、頭の中に流れ込んできた機体情報の中には、損傷の自動回復などという機能は備わっていなかったにも関わらず、である。 それを目の当たりにした途端、強烈に嫌な予感がしたのだ。いや、もはや予感というよりも、確信に近い思いがある。 このマスターガンダムには『何か』があり、これに乗り続けることは、危険を伴うことなのだという確信が。 余りにも非現実的な話になるが――マシンに取り込まれる、とでも言えばいいのか。我ながらイカレている。が、実際にイカレたマシンなのだ、これは。 まったく、あの<コダール>といい、最近は玩具の中に物騒な付属品を混ぜるのが流行っているのだろうか。 もう少し、扱う子供が遊びやすい造りにしてもらいたいものだ。 もしくは、設計者達から実際に子供扱いされているのかもしれないが。自分達、使い捨ての道具に過ぎない、パイロットなどという役職は。 「……クク」 また、セピア色の思い出が一つ、頭を過ぎった。 『はは……! 馬鹿げた戦いだよ。大の男二人が、ロクに使い方も知らないオモチャで殺しあってるんだぜぇ? なあ……!?』 世界が変わり、乗り物が変わったところで、結局こうして、訳の分からない力に振り回されている現状。そういう星の下に生まれてきたのだろうか。ハッ。 死期も近く、五体満足ですらない男をこうまで甚振ってくれるとは。あのお天道様の向こう側におられる神とやらは、きっと極上のサディストに違いない。 まったく……お寒いねえ。 「…………」 モビルトレースシステムをカット。そのまま横になる。これでいちいち、一挙一動を真似していらぬ物音を立てるマシンに気を遣う必要はなくなる。 代償としては、敵に発見された時、迅速な撤退が出来なくなるということだが――急に、それらのことが、どうでも良くなった。 余計なことに、思考を回し過ぎた。お蔭様で、せっかく高揚したテンションが、すっかり萎えきってしまっている。 そもそも、客観的な視点で状況を見てみれば、元よりここは仕掛ける場面ではないのだ。 自分は不調、相手の戦力も曖昧で、おまけに存在を気付かれていない。ならばベストの行動は何か? 何もしない。大変結構、大正解ではないか。 そうと決まれば一眠りといこう。燦々と降り注ぐ陽射しの下、束の間の休息をとくと味わうのだ。3,2,1。おやすみ。 ……まったく、我ながら、お寒いねえ。 ライブと殺戮。双方の目的には途轍もない開きがあるが、とにかく―― 一人は舞台を求めて翔ける。 一人は疲れを消そうと眠る。 思い通りにならない世界で振り回される男達のニアミスは、こうした形で終わった。 【熱気バサラ 搭乗機体 ラーゼフォン:(ラーゼフォン) パイロット状況 俺の歌を聴けぇぇぇッ!! 機体状況:損傷無し 現在位置:B-5 第一行動方針:新たなライブの開催地を探す 最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる】 【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状況:全身持病の癌の激痛。無理すれば戦闘可能だが、現在は休息のため一眠り中。 機体状況:"損傷無し"。 現在位置:B-5密林 第一行動方針:物陰で休む 第二行動方針:近くにいる敵機を攻撃 最終行動方針:皆殺し】 【初日 16 00】 BACK NEXT 気になる、あの子 投下順 薄氷の同盟 はじめてのしゃいにんぐふぃんがー 時系列順 薄氷の同盟 BACK 登場キャラ NEXT 始まりの葬送曲 バサラ 『歌』に振り回される人達 金髪お嬢とテロリスト ガウルン 『歌』に振り回される人達
https://w.atwiki.jp/2ndchecker/pages/405.html
人物 ゲームスタイル 来歴 配信内容 +配信ページ等 ●Ust及びJus 配信ページ IRCチャンネル名 ホスト ustream marine628 #marine628 marine628 justin marine628 checker マリン ●他 twitter marine628 ろだ 画像を貼るディオス ブログ 明日を救う日々 人物 若い頃からスパロボとテイルズを愛している、アニメや漫画が好きなクソヲタ 名前の由来はニコ生で名無し時代に宇宙戦士バルディオスの主人公マリン・レイガンのモノマネをした際チャ民に名づけられたから 上記の理由で、実はマリン・レイガンもバルディオスも好きじゃなかったりする(嫌いでもない) マリン「強いとは思うけど別に…」 いい年して青年漫画より永遠の少年漫画好きであり少年ガンガンについてよく熱く語る アニオタであり度々来季アニメPV集や好きなアニメのシーンを視聴しながら雑談を行う よくしゃべる ゲームスタイル RPG要素のあるゲームが好み。飽きやすくハマりにくい分ハマったときはガッツリやるタイプ。特にレベル上げに関しては配信外で作業として淡々と上げる。(例:OG2の終盤が難しいのでサイフラッシュで稼ぎながら全滅プレイを繰り返してたらマサキのLvが99になってた、TOGfの戦闘システムがおもしろいといって難易度上げながら戦い続け気づいたら最高難易度カオスになってた、ACE3においてボス敵に勝てなくなってきた為メインで使用している機体をフル改造状態にする等) やり込み要素に関しても積極的でストーリー的ネタバレに触れない程度に攻略サイトを使うこともある アクションセンスはなく努力とゴリ押しでクリアする。(例:MGS3において1時間近くかけて行動パターンを完全に把握しザ・ボスを打倒) その為ステージを把握し最速を目指すソニックシリーズがお気に入り 来歴 2009年夏 友人にゲーム実況を誘われ撮り始める(その友人は早々に飽きた) 2010年春 実況動画をニコニコ動画に投稿し始める(デビューまでの約1年間に没になった動画が戒めとしてHDDに眠り続けている) 2010年秋 しゃべりながらダラダラと大好きなスパロボをしたいがためニコ生始める 2011年春 珍事件が多数起きるニコ生界隈に絶望しjustinを使ったチェッカー配信者となる 2012年2月:それまで使っていたノートPCからデスクトップPCに鞍替えし配信環境を向上させる 2012年12月:HDMIキャプボを搭載し画質向上させる 2012年12月~2013年2月:「スパロボ強化月間」として終盤で積んでいたOG2、OG外伝、3次αトウマルート(神雷取得まで)、2次OGをプレイした 2013年3月~仕事が忙しくなり配信頻度が月1程度に減り。スパロボUXをクリアするのに1年近くかけるようになる 2015年9月27日:この日をもって配信をABAYO(引退)する事となった。理由は配信頻度が少なくなってしまい惰性になっていたこと、彼女が出来たのでリアルに時間を費やしたいとの事。最後の配信内容はロックマンX5と2015年秋アニメ前紹介動画であった 2016年2月12日:配信短期復活。経緯は「彼女できる→配信やめる→仕事の関係で遠距離(東京⇔北海道)に→けっきょく一人暮らしじゃん→なう」との事である。夏近くまでは復帰できるとの話らしい。 2016年8月3日:短期復活期間を終え(転職の為退職し東京を離れる)完全に引退。最後はスパロボOGMDをクリアし今までの思い出を語り去った スパロボ暦:α外伝→α→A→R→IMPACT→ニルファ→OG→MX→D→サルファ→J→Z→W→Z2破界篇→Z2再世篇→GC→K→OG2→OG外伝→2次OG→OE→UX→DP→OGMD 配信内容 +クリアしたゲーム ゲームタイトル 概要 スパロボZⅡ破界篇 初見HARD Lv99ガイオウ攻略 サクラ大戦2 一目惚れしたすみれルート攻略 エヴァ鋼鉄のガールフレンド2nd レイルートを攻略したがカヲルENDがメイン クロノクロス 既にクリアしていたが難解な話を理解するため行った。結果としてチャ民の力を得そこそこ理解する メタルギアソリッド3 神ゲー。初見HARDクリア。「ジ・エンドはなんか勝手に死んでた」 スパロボZⅡ再世篇 初見HARD ifルートLv99ガイオウ攻略 がんばれゴエモンネオ桃山幕府の踊り 昔やりこんだということでプレイ。招き猫全取得?TA:5 02 零~紅い蝶~ 24時間配信にて初見クリア。マリン「一番怖いホラーゲーム」 アマガミ 森島先輩ノーマルエンド ソニックアドベンチャー2 思い出のゲーム。ぶっかけきなこ棒 Another Century's Episode 3 神ゲー。初見ハードクリア。衝撃のラスボス スパロボOGS ニコ生時代から積んでいたが長い時を経て初見OG2シナリオHARDクリア スパロボOG外伝 修羅の力により初見HARDクリア 第2次スパロボOG 神ゲー。初見HARDウルトラマンルート攻略。こ、こんな宿命ぇぇぇぇぇっ!! テイルズオブグレイセスf 神ゲー。初見カオス。系譜編はイヴィルにてクリア。。教官はホモ スーパーロボット大戦UX ダミアンゲー。強さ、キャラ、シナリオにおいてデモンベインがお気に入り 第2次スパロボOG DP グランゾンで無双するのが楽しかった。OGは神ゲー 第3次スーパーロボット大戦α トウマルート初見プレイ。大雷凰取得後期間空いたが無事銀河を救うフリーターとなった ソニックアドベンチャー 思い出のゲーム。ソニック編クリアしたからクリアでしょ ロックマンX3,4,5,6 TAS動画に魅せられる&思いでのゲームとしてプレイ。マリン「アクションってのはゴリ押しの覚えゲー」 スパロボOG MD マリン配信最終プレイゲーム。やはりOGは神ゲー。真・カルビ無双 +未クリアのまま終了した作品 ゲームタイトル 概要 サモンナイト2 ちょっとやった(ほぼ黒歴史) スターオーシャン2 ちょっとやった(ほぼ黒歴史) スパロボ2次α 仮免に託す。結果的に二人共やらなくなった スパロボZ(2週目) セツコルート進行中。バルゴラグローリー見れたんで満足しました メタルギアソリッドPW(初見ノーキル) おちんぽ少尉と協力プレイするまで発展したがシナリオをクリアせず終了 スパロボGC 絶対無敵のスーパーロボット大戦。通常のスパロボと違う面に慣れずに終了 スパロボZⅡ再世篇(2週目) 半分初見ゲーム。改造縛り。2週目なのもありモチベ上がらず ef a fairy tale of the two ノベルゲーは眠くなるので配信外でプレイすることに Another Century s Episode R HDMIキャプボのテスト用。ゲームバランスがおかしくクソゲーだった スーパーロボット大戦F カザハラの為にアーカイブスで購入。少し遊んで終了 スーパーロボット大戦OE 参戦作品に魅せられたが途中で断念 +引退配信 一度引退後短期復活を遂げていたが2016年8月3日に正式に引退。突如の引退宣言からいつも通りの配信を行ったあとに凸を募集しあっさり終わった一度目の引退配信とは違い「スパロボOGMDを最後にする」「8月の頭くらいがラストになる」「スケジュール的にあと~度の配信で終了」といったように事前からラスト配信へのスケジュールを告げ、予定通りの日程でゲームをクリアし最終配信らしく今まで行ったゲームや配信への思い出(下記文)を語り終了した。 「スパロボ強化月間、ひいては2次OG配信がゲーム的にもネタ要素やチャットの盛り上がり等配信的にも一番おもしろかった」 「スパロボ以外だとTOGf、MGS3、零、ACE3配信がおもしろかった」 「好きなゲームをチャットの皆と一緒に語りながらプレイすることが楽しかったです」 「カザハラをはじめネタキャラ達も皆好きだったよ」 「(配信終盤)今リトルバスターズの恭介みたいな想いだよ(俺だってまだずっとずっと一緒に遊んでいたいよ!的な)」 「ABAYO…」 +マリン配信ネタキャラ四天王 +イルムガルト・カザハラ 出撃せず戦艦から戦闘を眺めながらシリアスなセリフをたびたび発することからネタになり当配信におけるアイドルとなった男である F-32Vシュヴェールト改は彼の愛機。この機体に乗り常に32番で待機中。 余談であるが、ロダの「画像を張るディオス」にて、彼のこれまでの愛と涙と笑いの勇姿を記録した画像があるので、要チェックだ! 「チャレンジ精神が旺盛なんでね」 やる気満々だが彼は戦艦から戦闘を眺めているだけである 「シビアな演習だな、こいつは」 相変わらずチャレンジ精神が旺盛である。なおこのセリフを発したシナリオ自体は全くシビアではなかった模様 「ま、サービス精神も程々に……っと!」 この後の攻撃で敵を倒しきれずに敵に対するサービス精神を見せつけた 「イルイよ…」「だ、誰…?」 一見普通に見えるが、この時マリンに見えたものは「イルムよ…」「だ、誰…?」となり、彼に大きな笑いをもたらした 「物理的に引き離すしかないだろうな」 第2次OG49話にて暴走した雷鳳からトウマを救う為にイルムが提案したもの。しかし肝心なイルムは、戦場から戦艦へ物理的に引き離されている様子 「フッ…そうだ、言われてみれば単純だぜ。気持ちで負けたら、そこで終わりってな」 戦艦で留守番の地点で、そこで終わりってな 「行くがいいさ…あの世へな」 ガルムレイドが宿敵であるAI1に決着をつけた際になぜか戦艦から出しゃばって発したセリフ。カッコイイセリフなだけに… 「ちっ!!早い幕引きだぜ!」 ついにイルムが満を持して出撃したステージで、ガンエデンとの戦いにイルムの全てを懸け特攻。当たり前の如く一撃で撃墜され、このセリフを残して退場した 「行くぜ、相棒!」 ラストステージでもまたまた出撃して、アダマトロンに特攻する際の戦闘デモ台詞でついに愛機を相棒と認めた瞬間である、スパロボ強化月間イルム最後の熱き集大成。なお結果は上記と同じく… +マリク・シザース 絡み付いたら離さないぞ! で、有名になった皆の教官。 ネタ一覧 剣が武器の近~中距離の前線キャラのおっさんかと思ったらバリバリ遠距離タイプの術師 屈強な体をお持ちなのにすぐ死ぬ。めっちゃ死ぬ(難易度のせいもあるが) イベントで「アッー」とヘヴン状態 「絡みついたら離さないぞ♂」触手プレイ 「刹那ドッキング♂だ」で有名なラッセと同じ声 マリクビーム 水着衣装で本編EDを迎えたためPS3版追加シナリオ開始時に水着(ブーメランパンツ)で合流 震天裂空斬光旋風滅砕神罰割殺撃でケツがアップで映る(基本水着装備なのでもう・・・) なんか色々ホモっぽい +峯崎 拳一 いくぜ、皆!!! と、気合たっぷりで攻撃した際に、攻撃がミスする所から彼の伝説は始まった。 もしかしたら、イルムやマリクの後輩になる可能性が秘められている。 ネタ化したステージにて、キングゴウザウラーに合体する時にマリンが飛ばしてしまったのか、「キングゴウザウラー!ちょry」で途切れてしまう。悲しいぜ、皆!!! 同ステージにて、ラストターンを目前に必殺技オンリーで敵機を撃墜する中、トリがキングゴウザウラー務める際、気力が足りないという不具合が発生し、1ターン待つ始末に。情けないぜ、皆!!! 青のシナリオ「時の異邦人」にてゴーショーグンが参戦、なんて事はどうでもいい事件が発生した。なんと、ダークゴウザウラーが現れた。マリンにとってはサプライズ参戦であり、正義の味方が何してるんだ!?という始末に。濡れ衣だぜ、皆!!! 9月3日(厳密には日を跨いで4日)の配信終了間近、マリンは「いくぜ、皆!」の部分だけ音声抽出していた事実が発覚した。リピートするそのうるささは正に、拳一という感じだった。嬉しいぜ、皆!!! 10月5日の配信にて、マリンのチャットに「いくぜ、皆!」と打ち込む事により音声が出るようになった。気合入れていくぜ、皆!!! ※音声は『いくぜ皆・行くぜ皆・いくぜ、皆・行くぜ、皆』の単語で流れる。 +ダミアン スパロボUX配信にて、じわじわくる系のネタキャラと化した男。 彼は目立たず最良のタイミングでやってくる。表のイルムならば、彼は裏方のダミアンとも呼ばれている。 拳一に続いて、マリン配信ネタキャラ化第4弾。ダミアンの今後の活躍に期待したい所だ。 「ダミアンの空手指南書」 不意打ちに定評のあるダミアン。ふとスキルパーツ一覧をチェックした時に見つけてしまい配信に笑いをもたらした
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/387.html
かくして、ロジャー・スミスは帰還する――! 「ネゴシエイター……? その機体は!?」 魂まで抜け出ているのはないかと思う声で横から声をかけられる。 そこには、テンカワの乗る機体が白い星の表面に座り込んでいた。 ロジャーは腕を組んだまま、三方を見る。 横――細部が変わっているが、朽ちたキングジェイダーと思わしきロボット。 上――光り輝く『世界』。 下――大いなるO――ビッグオー。 ロジャーは今、天へと伸ばすビッグオーの腕の上にいる。 だが、そこにいるビッグオーは朽ち果てている。腕は片方なく、赤い頭部装甲は砕け、全身は傷だらけだ。 「ビッグオー……」 ロジャーは、無理やりに忘却させられていた記憶(メモリー)を思い出した。 自分はこの殺し合いが始まる前に、あのノイ・レジセイアとあっている。 そこでノイ・レジセイアはこう言ったのだ。完全なる世界とは何か、それを知るための仲介者として世界を演出する存在と交渉してほしいと。 突如この白い魔星へ拉致されたも同然だったのである。信頼や、フェアと言った言葉からかけ離れた横暴をロジャーは当然否定した。 そして、その時もロジャーは叫んだ。来ることを確信し、神の鋳造せし巨人に、生の息吹を与える言葉を。 だがそこでビッグデュオに宿ったノイ・レジセイアにロジャーは敗北した。 ビッグデュオを打ち倒せはしたが、ビッグオーも戦える状態ではなかった。 ロジャーは、ビッグオーの損傷の一つ一つが、どうやってついたか記憶(メモリー)に覚えている。 ノイ・レジセイアは最後に告げた。 「お前と言う存在が起こす可能性……観測する価値がある……しかし、我が目的を知られるには……早い……」 意識が暗転し、気付いた時にはロジャーはその記憶(メモリー)を失い、あの始まりの場所にいた。 ノイ・レジセイアの威光を感じながらも、誰よりも早く一歩を踏み出し、一声を放った理由はそこにある。 コクピットに飛び乗り、左右に並ぶスイッチを手馴れた様子で弾き、降りてくるリング状の操縦桿の中、ロジャー・スミスは両腕をクロスさせる。 目の前には円形のディスプレイ。そこに流れてくる文字は―― “CAST IN THE NAME OF GOD” “YE NOT GUILTY” 雑音混じりでも、ひび割れ読みづらくなろうとも、ビッグオーはロジャーの期待を裏切ることは決してない。 途中までしかない左腕を真っ直ぐ前に突き出し、右腕を腰溜めに。 どれだけボロボロであろうとも、その体勢に構えたビッグオーの両眼は光を得て瞬いた。 ロジャーが見つめる相手は、これから生まれいずる『世界』そのもの。 「ネゴシエイター……なにをするつもりだ?」 「この状況をそのままに投げ出すのは私のやることではない」 自分がやるべきことは、自分で決める。 そして、今やるべきことはこの狂った世界で起こった、狂った出来事を収束させること。 ロジャーは、もう迷わない。 「正気か!? あれが何か分かっているのか!?」 テンカワが、あれが何か、ノイ・レジセイアがなんと言ったかを早口でまくしたてた。 いつも無口で、そういう性分なのかと思っていたが、案外にそうでもないらしい。 ロジャーは冷静にテンカワの話を全て聞き、それでもなお肯定する。 テンカワは、ロジャーの様子を見て、信じられないと言外で示しながらも、さらに断言するように、 「どうするつもりだ? 突然出てきたその機体がどれだけのものかは知らないが、『世界』を相手に戦って勝つつもりか?」 「……私が真っ先に暴力という手段を取る人間だと思っているとしたら心外だが……戦うつもりはない」 「なら……」 「私は」 テンカワの言葉を途中で切って、ロジャーは言った。 「交渉人だ。言葉というものがどれだけの力を持つかも知っている」 ポカンとするテンカワ。その頭上には、コミックなら大量のクエスチョンマークが回っているだろう。 テンカワは、もう白い魔星にふれるほど巨大化した『世界』を指さした。 「あれと……交渉するつもりか!?」 「その通りだとも。私は、諦めるつもりもない。足を止めるつもりもない」 ギアコマンダーに映る蛇の影。 ロジャーはバイパーウィップと契約するときに、こう言った。 ―――――私はロジャー。ロジャー・ザ・ネゴシエイター……この混沌の世界と交渉し、調停する者だ、と。 その契約の条件を、ロジャーは守る義務がある。 ロジャーは、ビッグオーを歩かせ、白い魔星の表面に撃ち捨てられたガンダム頭のキングジェイダーへと近づいた。 もう、そこに命の気配はない。シャギアもキラもいないことをロジャーは直感的に悟った。 ロジャーは、ガンダムキングジェイダーの胸の中心で輝く深紅の宝石を見つけた。 装甲が剥げ、内部構造がむき出しになっていながら、その宝石だけは砕けることなく輝いてる。 これがおそらくトモロが話していた、動力源のJジュエルというものなのだろう。 ビッグオーはそれを丁寧に拾い上げた。 「……本当にやる気なのか?」 「そういう君は、ここで諦めるつもりか? それが君として、君らしい選択なのか?」 「自分らしくいこう……か。そういうお前は、自分が何者なのか知っているのか?」 「その通りだ。私はロジャー・スミス。そして、ネゴシエイター。これが私の仕事だ」 いぶかしむような声だったが、ロジャーの声を聞いて、テンカワの声に僅かに張りが戻る。 まだどこか悩んだ様子だったが、それでも自分が自分であるとテンカワは告げた。 「俺は、ユリカの味方だ。どんな時でも、ずっとだ。ユリカを生き返らせるに、死ねと言うなら死んでやる。 だが、今は死ぬ時じゃない。本当にやれるものならやってみろ。本当にできると言うなら、何だってやってやるさ」 「そうか。なら、君にできることがある」 「なんだ?」 「私に依頼することだ。この『新しい世界』に対して、古い世界にいる我々が結着をつけるまでの猶予が欲しいと」 口の端を僅かに釣り上げて、ロジャーが笑う。 それにつられて、テンカワも口元を僅かに緩めた。 「いいさ、ロジャー・ザ・ネゴシエイター。……頼む、この古い世界にもう一度時間をくれるように」 ビッグオーがゆっくりと足を進める。 そして、アルトアイゼン・リーゼの前に立つと、ロジャーはあるものを取りだし、コクピットから降りる。 アキトも、何も言わずともコクピットから降りた。ビッグオーの手の上で、初めて生身で二人は向かい合った。 「私が求める報酬は、この二つをアイビスとカミーユに届けることだ」 「俺が、約束を無視するとは考えないのか?」 「少なくとも、私の知るテンカワ・アキトという人間は、最後の一線ではフェアであると思っている」 差し出すのは、黒のギアコマンダーとJジュエル。 テンカワは、「よく知りもしないのに、言えたものだ」と言いながらも、その二つをしっかりと受け取った。 一瞬、互いの顔から表情が消える。両者とも相手の顔を見つめていた。 「渡してからは、容赦しない。俺は、ユリカの味方だ。それが、俺が在りたい俺自身だからだ」 「もし、君が何者か知って、なお貫き通そうというのなら、あえてなにも言わない。依頼は、確かに受け取ったのだから」 そして、お互いが背を向け、コクピットに戻っていく。 二人の邂逅は、ただそれだけ。だが、確かに二人は感じとっていた。 自分が自分であることの難しさを知った男は、信用できると。 アルトアイゼン・リーゼが光とともに消えていく。おそらく、あの空間転移を使ったのだろう。 白い魔星の表面部にいるのは、もうこれでロジャーだけ。 ロジャーとビッグオーが、近付いた白く輝く『新しい世界』へ手を伸ばす。 ――ビッグオーの手が、『新しい世界』に触れた。 その瞬間、ビッグオーの手が小さな破片となって散った。 同時に、ロジャーには凄まじいまでに膨大な、情報とも思念とも呼べない、混じり合った何かが流れ込んでくる。 気を抜けばものの一瞬で自分自身を見失ってしまうほどの圧力を伴った、カタチのないモノ。これが『世界』。 それでも、脳をぐちゃぐちゃにかき回すような大嵐の中でも、ロジャーは自分を見失いはしない。 『世界』は、何かを叫んでいる。それだけでもロジャーは感じることができた。 ならば、交渉の余地はある。 相手が意思を持ち、何かを叫ぶというのなら、ロジャーはその声なき声に耳を傾ける。 ロジャーにできることは、相手の望むことを言語に変えること。 「私は君の名前すら知らない! 君がなにを望むのか……それを私に教えてほしいのだ!」 ロジャーが、叫ぶ。 たった一人の人間など容易に消し去ってしまう、人間とは比べものにならない存在の力を持つ『世界』に。 『世界』の意思がさらに大きくなる。これは、ロジャーに向けて何を主張しているのか。 否定か。疑問か。はたまた、動揺か。ロジャーは歯を食いしばり、相手から――『世界』から目を離さない。 「もし君が、この古い世界にも何か可能性があると思うのなら……待ってほしい! まだこの世界で、生きる者がいる! そして、今を変えようとしている! まだ変わっていくことはできる!」 『世界』の膨張が、止まった。 ビッグオーの指が触れた部分からそれ以上膨張することはなく、白い明滅だけを繰り返している。 今の言葉だけで通じてくれたのかとロジャーは僅かに楽観する。だが、次にはさらに圧力を持ってロジャーへと意思が向けられた。 やはり、言いっ放しで終わるほど、交渉というものは甘くない。ロジャーは、必死に『世界』の意思を読み解こうとする。 ロジャーの言葉を聞く気がないなら、とっくにロジャーは光に消えている。 膨張を止めてくれたのは――人間で言うのなら足を止めてくれたのは――ロジャーの言葉に興味を持ってくれたことに他ならないだろう。 そして、ロジャーに向ける意思の量が増えることは、 回りすべてに叫び散らすのではなく、ロジャー・スミスという個人に言いたいことがあるからに違いない。 「もし、君が自分の望むことを言葉に変えられるというのなら、そうすることを希望したいが……」 言葉ではなく、頭に直接意思を送ってくる相手に、言葉という概念が通用するのか。 言葉は、お互いを人間が理解するための手段である。 もしも人間が理解できないようなものならば、それを言葉で表現することもできないだろう。 いや、表現できるものであるとしても、言葉以外の伝達手段を持ち、使用する『世界』が言葉を使う有用性を理解できるとは思いづらい。 そんな相手に言葉という手段を用い、交渉しようとしている自分も自分かとロジャーは苦しくても、なお笑う。 理解できない、という発想を捨てるのだ。 それがどんな意思伝達手段であろうとも、理解できるという前提で臨まねば掴めるものもつかめない。 何を言っているか分からなくても、どう思っているかだけでも掴む。 『世界』にそんなものがあるか不明だが、言葉が通じなくても怒りや悲しみ、喜びなど感情は伝わってくるものだから。 「私が君の希望を答えられないかもしれない。だが、君の希望が分からなくては、答えられるかどうかすら分からない!」 頭痛に顔をゆがませても、ロジャーは叫び続ける。 自分が持つ、たった一つの手段である言葉を――「交渉」を、相手に伝えるために。 『世界』がロジャーに何かを発信している。ロジャーはそれを受信している。問題は、ロジャーがその受信したものを理解する方法だけだ。 ロジャーは、その時、ふと違う方法を思いついた。ロジャーの言葉が、もしも『世界』に通じているのなら。 「もし君に私の言葉が通じているのなら、答えてほしい!」 そう言って、ロジャーは一度言葉を区切る。 「君は私に何を伝えたい!? 怒りか!?」 意思の圧力が、僅かに歪んだ。 歪みが、ロジャーのこめかみあたりで鈍い痛みを呼ぶ。 自分が不快に感じることから、おそらくこれは『世界』にとっても不快なのだろうとロジャーは当たりをつけた。 「喜びか!?」 先程と同じ反応が返ってくる。 これも、おそらく違う。 「楽しみか!?」 これも、違う。 なら、残るのは一つしかない。 無論、これは『世界』にも感情があり、四つのうちのどれかに正解があると仮定しての消去法にすぎない。 ロジャーは『正解』がなかった場合を敢えて頭の端に寄せ、四つ目の選択肢を世界に問う。 「なら……悲しみか!?」 ロジャーが言葉を放つと同時、ロジャーの頭に流れる不快な歪みが消えた。 まっすぐロジャーの頭に入っていく意思の圧力に、ロジャーはこれが正解だと悟る。 しかし、これで終わりではない。さらなる疑問がロジャーを追い詰める。 『世界』は、悲しんでいる。ならば、それはいったい何に対しての悲しみなのかということだ。 生まれたばかりの世界が感じる悲しみとは、一体何なのか。『世界』ならざる身のロジャーには想像もつかない。 だが、そこでやめてしまっては終わりだ。 「君は一体何に悲しんでいる!? 悲しんでいる理由は何だ!?」 『世界』の悲しみを知るべく、ロジャーは光に手を伸ばす。 「親しき存在の死!?」 「大切なものの消失!?」 「自分が傷ついたことなどへの痛み!?」 ロジャーは、自分が思いつく限り、悲しむ理由を挙げていく。だが、どれもが歪みを伴った間違いであるという圧力のみ。 人が思いつく限りの理由も、『世界』には当てはまらない。ロジャーは諦めず、言葉を探し、世界にぶつける。 頭痛の中、叫び続けたことで酸欠と相まって視界が白くなる。それでも、ロジャーは叫び続ける。 しかし、送られてくるのは否定ばかり。 ロジャーはビッグオーの計器に持たれ、ゼイゼイと喘息の患者のような呼吸で、白い世界を見上げる。 「いったい、君は何なのだ?」 ロジャーからすれば、まったくわけのわからない相手を前にしての、ひとり言だった。 だが、それに対しての反応は、これまでにないほどのものだった。否定のような歪みを伴った感覚はない。 どこまでもまっすぐに、ロジャーの頭が割れてしまうほどの大量の意思を流し込んでくる。 その圧力にロジャーは、喉から獣のような咆哮を上げながら、目を向いた。 到底、人間が受け止められるものではない、処理できないように思えた。だが、ロジャーはギリギリのところで理性を保っていた。 何故か。 それはロジャーが、わずかではあるが世界から送られてくる情報を処理――いや、理解できたから。 ロジャーは知っている。自分が誰なのか分からない苦しみを。自分と言うものがどこにあるのか分からない絶望を。 今、脳に流れ込んでくるものは、全てそう言ったベクトルを持った意思だとロジャーは分かったからこそ、理性を持っていられる。 情報が一度途切れた時、ロジャーはビッグオーのシートにぐったり自分が倒れていることに気付いた。 処理できない頭の中で暴れる意思に、意識の全てを向けていたせいで、自分の体がどうなっているのか認識できなかったのだ。 「君は、」 ロジャーは、おそらく正解と確信しながらも、『世界』へ問う。 「自分が何者かわからないのか?」 再び襲いかかる、圧倒的な圧力。しかし、同じモノの二回目、繰り返しだ。 その意思の中から、理解できた部分を今度は言語に変えてさらに理解しようとする。 一度味わった苦しみだから、もう一度耐えられるとは限らない。 だが、それでもロジャーは耐えられると信じ、敢えて逆に意思へ飛び込んだ。 そこに舞い踊るのは、ロジャーも慣れ親しんだ言葉という読解可能なもの。 ――ワタシ ハ ダレ? ――ナノタメ ニ ウマレタ? ――ワタシ ハ ナンダッタ? ――――ダレモ イナイノ? 同時に、流れ込むのは断片的な多くの人々の記憶。 光景の端々に、見たことのある風景が映り、知る人間の姿がある。 それは、あの殺し合いの風景であり、その舞台の上にかつていた人々であった。 かつてあの世界には声が満ちていた。それが呪詛であれ慟哭であれ、歓喜であれなんにしろ声があったのだ。 だが、それはもう絶えた。生まれ変わる世界に飲み込まれ、消えた。 同時に、人々の記憶や意思も、『ノイ・レジセイアが完全になる世界と呼ぶ世界』に統合されたのだろう。 あいまいな、誰でもない過去の記憶(メモリー)を持ちながら、それを確認してくれる人はもういない。 どこかで聞いた話だとロジャーは自嘲気味に笑った。 『世界』が何故広がり、全てを飲み込もうとするのか。ロジャーの声に耳を傾けたのか。 なにが完全な世界であるものか。 ノイ・レジセイアは完全な世界と呼んだ当人……いや当世界が、一番知っている。 どんな存在であろうとも、他者を求めずにはいられないのだ。 ただそれだけのもので、単一なもので、完成された世界などありはしない。 答えが、やっとロジャーにも理解できた。 理解できたのなら、ロジャー・スミスが次にやるべきことは何か。 憔悴しきった状態だというのに、ロジャーは、颯爽と立ち上がる。まるで、舞台の上の役者のように。 ロジャーの瞳が燃える。その意識は、あれだけの意思と情報の圧力にさらされた後だというのに変わることはない。 そしてロジャーは――ビッグオーのコクピットから降り、コクピットへの入り口、ビッグオーの胸の部分に立った。 ビッグオーの瞳が輝いた。危機へ飛び出していくロジャーを守ろうとするため動き始めるビッグオーを、ロジャーは手で制する。 「待て、ビッグオー。これは私の仕事なのだよ」 ロジャーが世界と向き合う。一対一で、正面から。 一瞬でも気を抜けば、魂ごと肉体をどこかに持ち去ってしまう嵐の中、ロジャーはいる。 今、ロジャー・スミスという男の持つ力と、世界の存在する力は、まったく等量だった。 「私は知っている。過去を失った街を。そこでは、誰もが記憶(メモリー)を、過去を求めていた」 吹きつける意思の風の中、ロジャーは真摯に語りかける。 それは、交渉する世界に向けてのものであり、同時にロジャー本人に向けたものでもあった。 「人にとって記憶(メモリー)は大切なものだ。 何故なら、それがあるからこそ、人は自分を確かめられる。それが失われれば人は不安から逃れられない。 だが、生きている人間は――いや、どんなものであれ、決して過去の記憶(メモリー)だけが形作っているものではない!」 ――ロジャー・スミス。 「この私自身、己がどういう存在なのかもわからない……私には、自分自身の記憶(メモリー)すらないのだ! だが、恐らく私は自分自身の意思で記憶(メモリー)を消し去ったのだ! その選択をしたのは、私自身だ! 私自身の為に、今と! そしてこれからを生きる為に! 自分という存在を信じたいが為に! 」 ――ロジャー・ザ・ネゴシエイター。 「今を生きることがどんな存在でもできる! どのように生を受けたとしても、一つの存在としての在り方は別なのだ! そして、それを選ぶのは他でもない君自身しかできない! 他人を飲み込むことで満たされるものではけしてない!」 ――パラダイムシティ一の交渉人。 「他の誰でもない! 君が、君で生きるんだ!」 ロジャーの言葉が、『世界』すら震わせる。 いや、それはノイ・レジセイアの力によりその光景を見ていたもの全ての魂も振るわせるだけの重みがあった。 ―――依頼は、達成された。 世界の意思が、風となってロジャーを優しく一度なでる。 それがロジャーの言葉への肯定であることを、誰よりもロジャーは理解していた。 古き世界に内包された、新たな世界が今一度眩い光を放つ。 それは世界の在り方を変える意思の変化によって生み出される因果律の風。 ロジャーとビッグオーを巻き込み、因果律ごと捻転する。 人の身では――いや、因果の内側にいる存在には耐えること叶わぬ力が生みだす、光の嵐。 光が収まった時――もう、そこには何もなかった。 舞台の上の難題を力ずくで解決する機械仕掛けの神〈メガデウス〉も。 記憶喪失の街で一番の交渉人〈ネゴシエーター〉も。 本当にそこにいたのか分からないほど、痕跡を残さず。 いや。 彼がいたことは、空に浮かぶ世界が示している。 新しい世界は、乳白色の卵型となり、白い魔星の側で静かに佇んでいる。 もう、世界が何かを飲み込むことはない。 【ロジャー・スミス 生死不明】 ■ 「やったのか……?」 自分の横にいる、腕を失ったアルトアイゼン・リーゼから声が漏れる。 突然白い小窓から見えた光景は、ノイ・レジセイアの告げた絶望をそのまま映している――はずだった。 「ロジャー……?」 もうすぐ、世界があたしたちのいる世界を押しつぶす。そして、全てなくなってしまう。 ノイ・レジセイアはそう言っていた。アイビスも、特別人と違う感覚を持たずとも、そう認識させられていた。 あの、圧倒的な存在感を持つ世界を前に。 だが、世界が放っていた圧力はもうない。ただ静かに形を変えて、宇宙に浮かんでいる。 それをやり遂げたのは、誰か。 他でもない、ロジャーだ。 ロジャーは、生きていた。そして、自分のやるべきことを――交渉をやり遂げたのだ。 「感謝するさ、本当にこうやって機会をくれたことを、な」 アルトアイゼン・リーゼが拳を差し出した。そこにあったのは、Jジュエルとギアコマンダー。 「受け取れ。奴は本当に交渉を成功させた。これは、俺が奴に払う報酬だ」 アイビスも白い投影された空間越しにロジャーとアキトのやりとりも見ていた。 まだ現実に追いつかない頭のまま、アルトアイゼン・リーゼをアイビスは見つめていた。 あまりにも現実離れした出来事の、現実離れした結末。それを飲み込むまで、アイビスは結構な時間が必要だった。 ブレンの掌に押し付けられる二つの道具。ロジャーが、最期にあたしたちに遺してくれたもの。 「で、でも……」 自分で言っておいて、なにが「でも」なのか分からなかった。 これを受け取ったところで、何も変わらないのではないか。 いったい、ロジャーはこれで何をさせようとしたのだろうか。 教えてくれるロジャーもいない。ロジャーは、確かに救ってくれた。 けど、この人工の星を取り巻く状況は依然として変わっていない。 自分に何が出来るのか。 そんな躊躇の念が、僅かにアイビスの言葉を濁す。 目の前のアキトは、アイビスを見て苛立たしげに舌打ちをした。 「渡すものは渡したぞ」 そう言って、アルトアイゼン・リーゼが杭打ち機のついた腕を振り上げた。 「奴との契約もここまでだ。後は俺の好きにやらせてもらう」 ロジャーとアキトのやりとりを思い出し、さっと血の気が引く。 そう、アキトは渡した後までは協力しない、願いを叶えるために殺し合いを続行するつもりだと言っていた。 つまり、自分をアキトは殺そうとしている。アイビスの恐怖を感じて、ブレンが後ろに下がる。 しかし、下がるだけ。そこに、抵抗をしようという意思はない。 「……奴の死に損だな。もういい、ここで死んでいろ」 「そんな言い方……!?」 「俺の言うことに納得いかないか? なら、やってみろ。 ――お前は、ここで諦めるつもりか? それがお前として、お前らしい選択なのか?」 アキトの言葉に、アイビスははっとなる。最後の言葉は、ロジャーがアキトに向けて放ったものだ。 そして、その言葉でアキトは何かを取り戻したように見えた。 アルトアイゼン・リーゼの背中に火が灯る。視界に映るスラスターの輝き。 スラスターが十分に出力を貯め、姿勢安定用の補助ウィングが展開された。 アイビスが、ブレンが動いた。 突進してくるアルトアイゼン・リーゼ。突き出される拳。その延長線上にある杭打ち機。 目をそらさない。引き寄せる。この距離で早めに動けば、相手も照準を直して対応される。 だから、それが出来ない限界を待つ。 恐怖で足がすくみ、動けなくなるのをアイビスは抑える。同時に、恐怖でその場からただ逃げ出してしまうのも。 動くべき時に、動く。言うは易し、やるは難し。 今度は、間違わない。 それでもアイビスは――それを成功させた。 相手の体が沈み、アッパーカット気味にこちらをとらえる寸前に、バイタル・ジャンプ。一気に背後に回り込む。 そして、ソードエクステンションを相手に向けて引いた。だが、アルトアイゼン・リーゼの巨体が消えた。 次の一撃に備えてアイビスが首を左右に振る。しかし、追撃はなかった。 少し離れたところで、アルトアイゼン・リーゼはただ立っている。 「……やればできるものだな」 アルトアイゼン・リーゼから聞こえるアキトの声。 それでやっとアイビスもなんとなく相手の真意を理解する。 「あ……ありがとう」 「お前のためじゃない。奴があまりにも報われないと思っただけだ。 さっさと行け。お前がやるべきことを果たせ。さもなくば撃ち貫く」 まっすぐアルトアイゼン・リーゼは隻腕をこちらに突き出し、アキトが言った。 「それでも、ありがとうだよ。助かったよ、アキト」 「……さっきも言ったはずだ。そう思うならさっさと行けと。お前は邪魔だ。 もうすぐここは―――」 突然、地面が揺れた。 偽りの星であり、地殻などないはずのインセクトケージの草が、木が、土が、振動でひび割れていく。 「――戦場になる」 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァアアアア!!!!!」 地面を突き破り現れたのは濁った桃色の、歪な体を持つ巨大な何か。 アイビスは、下の階層でそれを見ている。それは―― 「AI1……デュミナス!?」 しかし、アイビスがデュミナスから離れてあまり時間は経っていないというのに、その姿は無残なものだった。 半身を丸ごとえぐり取られ、そこから体液なのかよくわからない汚わいな液体を垂れ流し、全身砂埃で汚れている。 浮かんでいた四つの手も、どこにも見当たらない。 「……来たか」 アキトは、まるで来ることを知っていたかのような泰然とした態度で、デュミナスへ機体を向けた。 アイビスも、ソードエクステンションを構え、アキトともにデュミナスと戦おうとした。 だが、アキトはそれを制止するよう叫んだ。 「来るな。これは、俺の相手だ。俺が……倒す」 「何を言ってるんだよ! 相手もボロボロだけど、そっちだってボロボロじゃない!」 今のアルトアイゼン・リーゼは、片腕と頭を失っている。 それに、どこか動きもぎこちない。機体のフレームがどこか歪んでいるのは明白だ。 損傷の度合いならデュミナスに比べて軽いが、もともとの力はパーソナル・トルーパー一機とは比べものにならないほどデュミナスのほうが上だ。 「関係ない。倒す必要があるから倒すだけだ。お前は、この土壇場で損傷やリスクを考えて戦いを避けるつもりか?」 「それは……確かにそうだけど」 「ならさっさと行け、何回言わせるつもりだ。これ以上邪魔をするというのなら――殺す」 間違いなく、本気の殺気が込められたアキトの気配。 なにがアキトを駆り立てるのかは分からないが、アキトにはアキトの戦う理由があるのだろう。 「わかったよ。けど……」 「けど?」 「……頑張って」 「……お人よしだな。せいぜいそうする」 一発触発の空気の中、アイビスは下層への通路に走る。 どこまでも落ちていけるような円形の通路から、風が舞い上がり、ブレンへ吹きつける。 暗く、光の見えないこの通路の向こうには、おそらく地獄が待っているのだろう。 それでも――アイビスは飛び込んだ。 今までの戦いは、ずっと誰かがそばにいてくれた。 シャアがいた。キラがいた。カミーユがいた。シャギアがいた。アムロがいた。甲児がいた。 たった一人では到底太刀打ちできない相手にも協力し、連携し、撃破してきた。一人ではなかった。 だが今、アイビスの側には誰もいない。もう後がない。絶体絶命の状況だ。 自分は、アムロやシャアのような特殊な力もない。ロジャーやブンドルのような冷静な頭脳もない。 はっきり言って、あらゆる点でアイビスのポテンシャルは最低だったろう。 そんな自分が一人残って、できることがあるのか。 もう何もできない? ――いや違う。できる。 それでも、この戦いは終わらない。それは――なお足掻いている人がいるから。 今も、戦っている人がいる。だから、終わったりしない。 自分が、地獄と思ってる場所で、もう駄目だと絶望していた時に、地獄を生み出すものと戦っている人がいる。 あたしは無力じゃないとアイビスは己に言い聞かせる。瞼を閉じ、震える気持ちを呼吸とともに吐き出す。 絶望するにはまだ早い。今、ブレンの手の中にあるのはロジャーが遺してくれた希望。 全ての希望が砕けるまで、いや、砕けたとしても諦めるなんて冗談じゃない。 できないわけがない。ここで終わってたまるもんか。 そうジョシュアやラキに誓ったんだ。 ここで膝をついたら、あの二人に合わせる顔がない。 「一緒に飛ぶよ! ブレン!」 ずっと一緒にいてくれたパートナーにアイビスは言う。 飛ぶと。決して、地に落ちたりせず、飛び続けると。 力が劣っていても、アイビスは絶望しない。諦めない。 そんな彼女だからこそ、フィリオ・プレスティはアイビスにアルテリオンを遺したのだ。 どんな状況でも諦めず這い上がり、空を飛ぶ。 根性論と言ってしまえばそれまでだが、それこそアイビスが誰よりも優れているところ。 流星が、暗い闇の中を切り裂き飛んでいく。 「……行ったか」 アキトは、アイビスがこの場を去ったことを確認し、改めてデュミナスと向きなおす。 醜い。それが、アキトがデュミナスに対して抱いた最初の印象だった。 こんな醜悪な化け物と、自分が何処かで繋がっていると考えるのは、心底不快でしょうがなかった。 「あ、なたは……」 デュミナスの身体の切断面から、肉が盛り上がり蠢いた。金属をこするような音を立てながら膨張する肉は、不気味としか言いようがない。 インセクトケージに芝生を汚し、自分が流す液体の海に産み落としたのは巨大な手。その中心には、瞳の文様が刻まれている。 「あなたは……もう一人のわたし……ですね……?」 デュミナスの言葉に、アキトは何も答えない。いや、答えたくなどなかった。 アキトは、自分が自分でないような不快さと、何か足りないという欠落をこの白い魔星に辿り着いてから常に感じていた。 いや、それは正確ではない。もっと厳密に、正確に言うのであれば――このテンカワ・アキトになってからだ。 アキトは、一度死んだ。デビルガンダムの苗床となった体を、メディウス・ロクスに吸収されて。 そして、その後メディウス・ロクスはAI1へ進化したが、ガンダムキングジェイダーに粉々にされた。 その破片は、次元すら超えて飛散した。その次元すら超えて飛散した破片は、成長してデュミナスとなった。 だが、次元を超えずこの世界で漂っていたものの内、ひときわ大きな破片は、何たることかテンカワ・アキトの記憶と姿を形作った。 そう。 両者も原典〈オリジナル・AI1〉の砕かれた破片から生まれた存在に他ならない。 アキトも、こうやってデュミナスと向かい合うまでそうであるとはわからなかった。 ただ、混在する謎の記憶と、どこか心の奥底から願いきれない――あれほど追い求めていたのに――ユリカの蘇生に困惑するばかりだった。 アキトの記憶の混在は、次元の向こうに流れ着き、MUの力を手に入れこの空間に干渉するデュミナスの影響。 そして、ユリカの蘇生に対しての、情熱の欠落は―――― アキトは小さく首を振る。 それを認めることは、他でもない自分が、テンカワ・アキトでないと認めるに等しいことだ。 アキトは、アキトだ。アキトは、覚えている。小さい頃のユリカに振り回された日々も、あのもう戻れぬナデシコでの日々も。 アキトという存在を構築する過去を全て持っている。だからこそ、アキトは自分をアキトだと思える。 ロジャー・スミスと違い、アキトは過去なしで自分を証明できるほどの自信はなかった。 「今のままでは……私は完全になれず消えてしまう……もう一度……力を集めなければいけません……」 産み落とされた掌が、アルトアイゼン・リーゼにゆっくりと近づいてきた。 おそらく、あのときのようにアキトを吸収することで、自分の能力を再生させようというのだろう。 アキトは、その掌を、デュミナスを否定する。アルトアイゼン・リーゼの腕が掌を弾き飛ばす。 「何故……? どうして……!? あなたも、わたしのはず……」 「違う。俺は、お前じゃない」 瞳の文様が蠢き、大きく開かれた。 模様でも、それの彩る感情が驚愕だと認識できるのは、他でもないアキトがやはり『そういう存在』だからか。 手を震わせ、デュミナスはアキトにどう対応していいのか迷っているように見えた。 それに対する、アキトの返答は一つ。 肩の装甲が開かれる。そこに納められたのは、大量の大型ベアリング弾。 それが一斉に解き放たれ――デュミナスの産み落とした掌をばらばらに噛み裂いた。 「何故……私たちの目的は同じ。あのお方の願いを叶えるためにあるはずです」 「あのお方? ふざけるな。俺は―――ユーゼスのことを認めない。ユーゼスは屑だ。ゴミだ。あんなものは、生きる価値もない」 デュミナスの動きが止まる。 ひどく無機質だったデュミナスの声に起伏が、感情が生まれる。 「許さない。私はあのお方を否定するものを……許さない!」 「来い。俺の全存在を賭けて――お前を否定してやる」 作り物の青空の下。 人という実験動物を納める檻の中で、同じ造物主を持ちながらあらゆる点で真逆の存在が激突する。 ■ この殺し合いの全てを司る存在、ノイ・レジセイアすら及びつかぬ偉業を達成した男が消え行く姿を、誰もが見つめている。 光の向こう、この星の外で起こった出来事は紛れもなく事実である。それは、今統夜たちが生きていることが証明している。 世界の風が、白い魔星を一度揺らしたが、それだけ。今もこうやって赤い宇宙に白い魔星は浮かんでいる。 「あり得ない……こんなことが……起こりえるはずがない……世界を……世界の在り方を……一人の人間が変えるなど……」 「まだ、そんなことを言うのかよ……世界は、人が支えてるものなんだよ! 空っぽの世界に、変わらないものがあるはずなんてないんだ!」 統夜は、声がしたほうを見た。 先程の衝撃で崩れた瓦礫の下から、見覚えのある機体が身体を起こしている。 全身ひどい有様だが、それでも剣を杖代わりに震える機体を支えていた。 光の粒子をはためかせ、銀色の猛禽類を思わせる姿をしていたはずの姿は、もう影も形もない。 それでも、戦おうという意思だけは、全く変わらず統夜にも伝わってくる。 統夜もまた、斬艦刀を再び引き抜くと、ノイ・レジセイアへ向けて突き付けた。 「俺には、何が起こったのか半分も分からないけど……分かることがある。 それは俺が助かったこと。そして、お前には今度こそ打つ手がないってこと。今度こそ、終わりだ!」 斬艦刀の一撃が、今度こそノイ・レジセイアに叩き込まれる。 ノイ・レジセイアが我に返るより早く、旋風のごとく繰り出された剣が、ノイ・レジセイアの上半身と下半身を叩き割った。 ノイ・レジセイアの上半身がくるくると空を舞い、疑似重力に引きずられて壁に落下していく。 あとは、斬艦刀を突きたて、力を奪えばいい。そう思い、統夜は剣を持ったままノイ・レジセイアへ近付いていく。 この長かった戦い全てに終止符を打つために。 ノイ・レジセイアの力さえ手に入れてしまえば、もはやこの世界に敵はない。 これが、事実上最後。 まだ再生する可能性を考え、ゆっくりと警戒しながらでも、距離は詰めていく。 「――――仕方がない」 その呟きに応じる形で、ゆっくりとノイ・レジセイアが突如壁に発生した底無し沼のような“闇”に呑み込まれ始める。 「な……」 統夜は、その光景に驚きながらも、一気にスラスターを全開にした。統夜の直感が告げている。 今のうちに決着をつけろ、と。このまま放置しては取り返しのつかないことになる。そんな予感に従って機体は加速していく。 闇が発生していたのは、僅か数秒の事だった。だが、その数秒が遠い。斬艦刀が到達したのは、闇の中へ完全にノイ・レジセイアが沈んだのちだった。 ――――この力だけは使うつもりはなかった…… 闇の渦の中に差し込まれた斬艦刀に、手ごたえはない。 しかし、その深い闇の向こうから、ノイ・レジセイアの声が響く。 ――――我を完全から遠ざける行為……しかし……再びこの箱庭を生み出すには……力が必要…… 地面が、隆起する。 統夜の心臓が早鐘のように音を立てる。統夜の脳がけたたましい警告を鳴らす。 統夜は、この世界全体が一気に沸騰したような暑さを肌に感じた。 世界のような圧倒的な存在感ではなく、ただただひたすらに強大な力。 巨獣の踏みならし〈スタンピート〉に近い振動が起こり続ける。 呼吸することすら困難になる。アインストの亜種であるからこそ、余計に統夜には理解できる。 今すぐ逃げろ。一秒でも早くこの場を離れろ。統夜の本能が絶叫していた。 だが、その思いとは裏腹に、足は凍りついたように動かない。 ■ ――白い魔星、ネビーイームは全域がデビルガンダム細胞に侵されている。 だからこそ、どんな場所であろうともペルゼイン・リヒカイトやアルトアイゼンといった機体を強化できた。 だが、その権能を司っていた主たるデビルガンダムはAI1ごとガンダムキンジェイダーに粉砕される。 その結果、ネビーイームはその巨大さゆえに目に見えにくいが、徐々に崩壊しつつあるただの巨大な建造物になり下がっていた。 どんな強力な力も、その力を行使する指示者がいなければなにも起こらないからだ。 ここで、思い出してほしい。 ――そもそも、何故ネビーイームはここにあるのか? それは、アルフィミィがノイ・レジセイアの新たな肉体として用意したことに他ならない。 ――では、何故ネビーイームとの融合をノイ・レジセイアは拒否していたか? それは、ノイ・レジセイアがより完全なものになるためだ。機械を取り込めば、力だけは増すが自身を完全な生命から遠ざける。 完全なる世界へと至る資格を失ってしまう。これでは、ノイ・レジセイアからすれば意味がない。 ――ならば、今すぐに完全なる世界へ至る必要がなくなればノイ・レジセイアはどうするか? 答えは、言うまでもない。 ■ 星の中心に位置する大空洞に、爆発的に瘴気が拡散していく。 闇の中から、巨体が浮上する。 荘厳な、そして圧倒的な威圧感を持ち、声が響き渡る。 何もなかったはずの空間が白く圧縮され、闇の円環より人知を嘲笑う、存在しえないような生物が顕現する。 顕現したノイ・レジセイアを見て、統夜は驚愕した。 禍々しく伸びる角、 おぞましく蠢く触手、 原色を切り貼りしたような体色、 生物でも無機物でもない怪物的なフォルム。 植物のような触腕を伸ばし、 無機物のような外皮を纏い、 動物のような爪と翼を携え、 金属のような光沢を持ち、 ―――人のように話す。 あらゆる生物の可能性を寄り合わせたような究極の生命体であり、 同時に、その進化の不均衡さにより膨張する体はどこまでも不完全で、「出来そこない」であった。 それは、統夜が最初に幻覚として見たものに他ならない。 半径5kmほどの球状に広がる中心部の壁、その三分の一以上を占める場所からその肉体が現れる。 床から直接生える身体を伝うように、赤い肉が床板をはがして露出する。 リノリウムに似た光沢を持ち、神殿のような静寂を保っていた星の中心は、巨大な生命体の体内へ変わる。 全長1kmを超える、あらゆる生物の進化と、数多の生命体が生みだしたテクノロジーを内包した巨躯が空間を震わせる。 ――――聞け………矮小なるものよ……… ――――今の我は不完全故に、過ぎた力を内包するもの……… ――――――――我の名はシュテルン・ノイ・レジセイアなり………!!! 統夜の前に現れたのは、この殺し合いにおいて、絶対の力を持つ存在だった。 →ネクスト・バトルロワイアル(5)
https://w.atwiki.jp/srwux/pages/327.html
ダウンロードコンテンツ ツメスパロボ・エンターブレイン攻略本 「解法」にはクリアする手順をそのまま記載しています。本ゲームの楽しみを損なわないためにもなるべくヒントから見るのがおすすめ。なお、回答はあくまで一例です。 勝利条件 敵の全滅 敗北条件 敵ユニットのエリア侵入 2ターン敵フェイズを迎える 味方ユニットの撃墜 クリア報酬 全体攻撃Lv+1 見切り 資金83200 ヒント ヒント1 解法1 +...
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/67.html
狂宴 ◆T6.9oUERyk 「ひゃーはははっ!!ブロォォォクン… 獅子を胸に宿した鋼の勇者が大きく右腕を振りかぶり、 ファァァァアントォォォムッ!!」 光のリングを纏った鉄拳が撃ち出される。 すさまじい勢いで迫る鉄拳は赤い巨人を掠め、 ズウウウゥゥゥン 巨人の背後にあったビルを打砕いた。 「いかんな」 紙一重で恐るべき鉄拳を回避した赤い巨人の操者・ユーゼス=ゴッツォは酷く冷静に状況を分析する。 敵の戦術は極めて単純、パワーと装甲を頼りにした力押し一辺倒。 しかし、敵パイロットは単純ではあっても無能では無いらしい。確実に間合いを詰め、的確な攻撃を繰り出してくる。 敵機のスペックはこちらを遥かに凌駕いている、現状では打開は極めて困難。 「ひゃーははは!死ねぇ!死ねぇい!!」 姿勢を崩した赤い巨人に向かって一気に踏み込んでくる敵機だが、 「むぅぅぅ!?プロテクト・シェェェェェド!!」 急速停止し、左手を眼前に掲げて… 後方から飛来した多数のビームが掲げられた左手に、正確には左手前面に展開された障壁に突き刺さる。 「やはり効果なし、ね。」 そう言って月の巨人を操るベガは唇を噛み締める。 事前の話し合いの結果、小回りが効き近接戦闘に特化したユーゼス機が前衛、的が大きく射撃武器の豊富な自機が後衛、と役割分担は決めてある。 二人の技量故か、即席のコンビネーションとしてはかなり上手くいっている。 それでもこの敵相手には絶対的に火力が足りていない。 月の巨人の放つ無数の光も、赤い巨人の繰り出す一撃も、獅子の勇者を貫くことは出来ない。 このままではジリ貧である。危険を冒してでも接近戦に打って出るか? ベガがそう考えていると、突然ユーゼスから通信が入る。 『一つ提案があるのだが?』 「何かしら。」 『やつは私が引き付けよう、君はその間に逃げたまえ。』 「…!!」 まさかの提案に息を呑む 「何を言っているの、あなた一人ではなぶり殺しにされるわよ!」 『現状でもそれは変わるまい。現に今の我々の火力ではやつの障壁を貫けんからな。ならば分が悪くとも可能性のある方に賭けるべきだ。』 ズズンッ 前方では新たな衝撃が 『レディーファーストだ。君の機体では大きすぎるから逃げるのも難しいが、私のアルトアイゼンなら多少の無茶は出来る。』 頑丈さが取り得の機体だからな、と。 その言葉の意味を違わず捉え、ベガは問う。 「…あなたの言う通りね。それで、単機でどのくらい耐えられるかしら?」 『よくもって五分というとこだな。』 5分あれば十分。 「判ったわ。あなたの意思は絶対に無駄にしない。」 そう告げると同時に、こちらに向かってきた鉄拳を回避し敵機へと牽制のビームを放ち… 背を翻したローズセラヴィーは北の市街地へと急速に離脱した。 やはり聡明な女性だな、とユーゼスは改めて実感する。 こちらの意図を正しく読み取り、躊躇無く実行してのけた。 あとは、賭けの結果を待つだけ。 「とは言え、寝て待つだけでは果報は得られんな。」 『ひゃはは!お別れの挨拶はすんだか?』 言いながらタックルを繰り出す敵機をサイドステップで回避しマシンキャノンを撃つ。 「済ませた。ひと時の別れの挨拶はな。」 厚い装甲に弾かれるが、気にすることも無く射撃を継続。 『そうだよなぁ、すぐに天国で再会できるからなぁ!!』 やがて、怒涛の連続攻撃をことごとく首皮一枚で回避するユーゼスに苛立ちが募ったのか 『ちょろちょろちょろちょろと、テメーはゴキブリかぁ!?』 言うなり獅子の勇者は動きを止める。 『こいつは取っておきたかったんだがなぁ、特別に食らわしてやる!ゲェェルギィィムガァァン…』 両腕が組み合わされ、その機体から強烈なエネルギー場が放出される。 大技を使うのかとユーゼスは判断し、回避しようとして 「ぬぅ!動かん!」 アルトアイゼンは空間に固定されたかのごとく動きを止める 『おおおぉぉぉッ!!ウィィィィィィィイタァァァァァァァアァァァァ!!』 地を砕き、大気を打ち破り、組み合わせた拳を前に怒涛の勢いで突進してくる鋼の勇者王 「ひゃははは!やるじゃねえか。」 嘲笑するゴステロ。彼の視線の先には左腕を失い、力尽きたように倒れる赤い巨人。 「今の一撃を避けるなんて大したもんだぜぇ!」 「そうでもない。」 苦笑するように呟くユーゼス。 謎のエネルギー場によって動きを止められ、必殺の一撃を受けそうになったユーゼスは とっさに左肩のスクエア・クレイモアをハッチを閉じたまま撃つことで暴発させ、その爆発で敵の一撃を回避したのだ。 もっともスクエア・クレイモア暴発の衝撃はすさまじく、 敵の突進の衝撃波と相まってアルトアイゼンは機能停止寸前まで追い込まれているが… 「でも、これでお終いだなぁ!!もうちょろちょろ動けないかななぁ!」 そういって拳を掲げ狙いを定めるゴステロに対し、ユーゼスは仮面の下で嘲笑を浮かべた。 「そう、お終いだ。それも私ではなく、貴様がな。」 「ああん?頭打っておかしくなったのかぁ!?」 「丁度5分だ。」 ユーゼスが告げると、鋼の勇者王に巨大な閃光が降り注いだ… 「…すごい威力ね、電童のファイナルアタック並みだわ。」 ローズセラヴィーの最大最強の一撃・Jカイザー。その凄まじい威力にベガは戦慄すら覚えていた。 先ほどの戦闘で並大抵の火力では通用しないと判断したユーゼス。彼は自分たちの持ちうる最大の火力であるJカイザーを使わせるべく、 それを敵に悟らせぬよう囮となってベガを逃がしたのだ。 やがて通信が回復 『Jカイザー、素晴らしい威力だな。』 「ユーゼスさん、無事ですか?」 『機体の損傷は激しいが命に別状は無い。やつと多少距離があったのが幸いしたな。』 「よかった。それで、敵は?」 『なかなか勘のいいパイロットだったようだな、逃げられた。さすがに完全回避は出来なかったようだが、 機体の左半身が大きく損傷していたから、今後下手には動けまい。』 「そうですか・・・」 思わず声が沈んでしまう。あの凶悪な機体を取り逃がしたのだ多少の落胆はある。 通信機からユーゼスの声 『我々は勝利した。今はそのことを祝おうではないか。』 ベガはその一言に力づけられる。 彼の言う通りだ、と彼女は思う。 この理不尽なゲームは始まったばかりで、あの様なゲームに乗った輩はまだまだいるのだ。 ここで落ち込んでいる暇などない、今はただ前を見るのみ。 「そうですね、今はこの勝利を喜びましょう。」 (北斗、あなた、待っていて下さい。私は必ず、この殺人ゲームを止め家に帰ります。) 「我々は勝利した。今はそのことを祝おうではないか。」 いいながら、ユーゼスは仮面の下に冷笑を浮かべる。 そう、確かにユーゼスは勝利した。 敵機を取り逃がしたことは問題ではない。 深手は負わせたし、何よりあれほど凶暴なパイロットだ、遠からず他の参加者と戦い自滅するだろう。 アルトアイゼンの損傷は手痛いが、その代償としてベガの信用を得た。 強力な機体に乗った有能な手駒、機体の左腕一つの対価としては十分すぎる。 元々、ユーゼスは他人を動かして事を成すことが本分である。 『そうですね、今はこの勝利を喜びましょう。』 通信機から、幾分晴れやかな声が伝わってくる。 そう、今はこの“勝利”を祝おうではないか。 「ちくしょう、殺してやる!!」 傷ついた巨人が地を駆ける。すでにその身を守護する左腕は失われ、左半身は砕け、溶け、ぼろぼろである。 「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」 脳だけでなく全身を襲う激痛に身を焦がしながら、狂人は呪詛をはき続ける。 「殺してやるぞぉぉぉぉぉぉお!!ぶぅっっっっ殺してやるぅぅぅぅぅう!!」 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:アルトアイゼン(スーパーロボット大戦INPACT) パイロット状態:やや疲労(上機嫌なのも私だ) 機体状態:左腕損失、ダメージ蓄積、3連マシンキャノン少々消費 現在位置:D-4 南の平原 第一行動方針:首輪の解除 最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る】 【ベガ 搭乗機体:月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー) パイロット状態:良好(ユーゼスを信頼) 機体状態:Jカイザーを撃ってENスッカラカン。移動には支障なし。 現在位置:D-4 南部市街地 第一行動方針:首輪の解析 最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出】 【ゴステロ 搭乗機体:スターガオガイガー(勇者王ガオガイガー) パイロット状態:全身と脳に激痛、怒りと興奮 機体状態:左腕損失(プロテクトウォール不可)、左半身にダメージ、EN大幅に消費 現在位置:E-4へ逃亡 第一行動方針:エイジ・カミーユ・ゼクス・ユーゼス・ベガを殺す 最終行動方針:生き残り優勝】 【初日 14:30】 BACK NEXT インターミッション 投下順 盤の上で駒は計略を巡らせて 武人ギム・ギンガナムの独白 時系列順 髑髏と悪魔が踊るとき BACK 登場キャラ NEXT 仮面の作戦会議 ユーゼス 出会いと再会 仮面の作戦会議 ベガ 出会いと再会 Power trip ゴステロ 赤と流星、白と勇者王
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/283.html
Time Over ―私の中のあなたにさよならを― 65 既に大きく日が傾き始めた頃、東へ東へと進む二つの機体の姿があった。 湖面に映し出された蒼い姿は有機的な流線型を、青ベースに赤と黄を散りばめたもう一つはごつごつと物々しい姿をしていた。 その内の蒼い機体の足が不意に止まりあたりを見回す。 北を向き、西を向き、南を向いて東に向き直る。周囲の風景に別段異変は見られなかった。 しかし、心がざわめくのをラキは感じ取っていた。既に彼女の一部となったジョシュアの心。それが熱を帯びたように熱かった。 「どうした?」 怪訝そうな声でエイジから通信が飛び、機体を寄せてきた。 「エイジ、ストレーガのハッチを開けてくれ」 返答を待たずしてブレンのコックピットから体を乗り出したラキが飛び出した。 それを慌ててフォルテギガスの腕が受け止める。いかに湖上とはいえ人が無事ですむ高さではなく、思わず冷や汗が背を伝うのをエイジは感じた。 「何をする気だ?」 ラキを落とさないように慎重にフォルテギガスの腕を操りながらエイジが質問を投げかけた。 「ジョシュアを探す。静かにしてくれ」 ストレーガのコックピットに滑り込んだラキが答えを返し意識を凝らす。 元々、彼女とジョシュアの精神はシュンパティアを介して混ざり合った。 その結果、彼女はおぼろげながらもジョシュアの存在を感じることができるようになったのだが、残念ながら大雑把すぎて位置をつかめずにいた。 それをフォルテギガスのシュンパティアを利用することでジョシュアの精神に同調しその居場所を掴む。 これがラキの考えであったが、彼女の言はいつも短く説明不足であった。 ゆえにエイジは不承不承ながらも黙ってみているしかなかった。 そして程なくラキはジョシュアの位置を掴むとコックピットから身を乗り出した。 「エイジ、ありがとう。世話になった・・・。ブレン、跳ぶぞ!」 突然の言に驚き声を返す間もなくブレンに乗り込んだラキは目の前から消え去る。 何故だか分からないが急がないといけない。彼女はそんな気がしていた。 大地は分厚い氷で成り立ち、そこここに多い茂る木もまた氷でできている。 そんな氷に覆われた冷たくも澄みきった世界でラキはたたずんでいた。 目に映るのは白と黒にその中間色からなるものだけ。美しく澄んではいてもどこか味気ない。 ヒヤリと透きとおった空気のなかで暖かな気配が風と共に頬を凪いでいった。 その気配にフラフラと釣られるように足を踏み出す。 樹氷の林の中に分け入り、時折足を止めてはわずかな温もりを確認しつつ進んでいく。 徐々に、しかし確実に気配は増し、不意に白と黒の世界から一変して緑の木々に覆われた世界が彼女の前に姿を現した。 そして、その中心で焚き木に火をくべている者を見つけ、彼女は我知らずに彼の名を呟いた。 「ジョシュア・・・」 振り返ったジョシュアと目が合った。 衝動に駆られるままにラキはジョシュアの懐に飛び込み抱きついた。 硬直するジョシュア。しばしの混乱の後、赤くなって慌て引きはがす。 「なっ!いきなり何をするんだ」 「親しい者同士が再会したときはこうすると聞いたぞ」 「誰からそんなことを」 「リアナだ。違うのか?」 思わず嵌められたという言葉が脳裏を横切り、頭を抱える。目の前の女性は何を疑う様子もなく怪訝な顔をしていた。 そんな表情から一変、若干の怒気を含んだ声で彼女は 「ジョシュア、一体今までどこへ行っていたのだ?私はお前を探していたのだぞ」 と言い放った。 「あ・・・・・・、すまない」 「だがここからは一緒だな」 その言葉にジョシュアの顔が曇り、次の瞬間ラキを抱きしめた。 「ジョシュア?」 驚いたラキは怪訝そうな声をあげる。 「・・・・・・すまない。もう一緒にいてあげられないんだ」 耳元で悲痛な声が響く。聞こえてはいたが言葉の意味がよくつかめなかった。 「ごめん。もう行かなきゃならない。ラキ、さようなら・・・・・・ありがとう」 いつの間にかそこにいるはずのジョシュアの姿は掻き消え、ラキの心象世界は急速に彩りとぬくもりを失っていく。 そしてそこには以前と変わらぬ氷の世界だけが取り残されていった。 ――ジョシュアの心は本体と同時にその活動を停止した―― 目の前の空間が突然ひらけ、夕闇に彩られ始めた空が視界に映し出される。 A-2北西の空間が歪み、いびつな音と共にネリー・ブレンがジャンプアウトしたのだ。 本日二度目の長距離バイタルジャンプ。ブレンのエネルギー切れが原因なのか、あるいはジョシュアの感覚を見失ったことが原因か、はたまたその両方か―― ――もう、どうでもよかった。 バランスを崩したブレンが落下する。 空がゆっくりと遠ざかっていく。 自由落下にまかせるままに砂地に落ちたブレンは砂埃を舞い上げた。 それからしばらくラキはただ空を眺めていた。 (ブレン、ジョシュアが私を置いて何処かへ行ってしまった・・・・・・) (・・・・・・) なんなのだろう、この気持ちは。苦しいわけじゃない。痛いわけでもない。 ただひたすらに寂しい。ずっと一緒にあったものが、大事にしていたものがなくなってしまったように寂しい。 (・・・・・・) (?) (・・・・・・) (そうか・・・。これが悲しいということなのだな・・・・・・) これが・・・、これがかつて私が振りまいていた感情なのだな・・・・・・! こんな、こんな気持ちを!!私は・・・・・・。 腕に力がこもり、拳を握り締める。何故だか勝手に涙が溢れてきた。 それを止めようとも思わなかった。 ただひたすらに自分を許せなかった。ただひたすらにジョシュアに会いたかった。 どうしようもなくなった彼女はただ声を震わせてただ泣き続けていった。 時刻は18 00を指し、最初の放送が静かに会場全体へと鳴り響いていった。 「Time Over ―Don't break my heart―」 そうか・・・、ジョシュアは・・・・・・。 放送が終わった後、意外にもジョシュアの死をすんなりと受け入れている自分をラキは感じていた。 一通り泣き伏して気持ちがすっきりしたせいかもしれない。 それとも律儀にもお別れを言いに着てくれたからだろうか・・・・・・。 (ブレン、私はどうすればいい・・・・・・) ラキはジョシュアを生き返らせたかった。だけど悲しいという感情を知ったことが彼女を迷わせていた。 それに、それを―それにかかる代償をジョシュアは多分望まない気もしていた。 「うっ・・・。なんだ・・・これは?」 そんな彼女を突然懐かしい感覚が襲う。 「これは・・・・・・負の感情?」 もともと彼女にはメリオルエッセとして人の負の感情を吸収する能力が備わっていた。 しかし、それはシュンパティアの影響でジョシュアと彼女の心が混ざり合い、様々な感情に目覚めていく過程で損なわれていった特性だった。 彼女はそれらの変化をかつて自分は壊れたと表現していた。 そして、彼女の言葉を借りるなら今その特性は直ったというべきか。ジョシュアの心が休止し、彼女の体はメリオルエッセとして再び正しく活動を始めた。 放送によって会場の中に満ち溢れた怒りを、悲しみを、憎しみを、慄きを、あらゆる負の感情を綯交ぜにしたものを際限もなくその身に取り込み始めたのだ。 「うあっ・・・!くっ!!・・・・・・あ゛」 負の感情を取り込んだ彼女の体が依然と同様に喜びの声をあげる。取り込んだ負の感情が細胞に染み渡り、肉体は活性化していく。 しかし、皮肉にも彼女の精神は以前とは変わってきていた。 「嫌だ!こんなもの・・・うっ!ゲホッ・・・こんなもの・・・ハァハァ・・・私は欲しくない!!」 彼女の得た人間らしい考えが、道徳観が、体験した思いが、体があげる歓喜の声を嫌悪し、全てを吐き出したい衝動に駆られる。 コックピットに転がり、のたうち、目を見開き、髪を乱し、胃液を吐き、撒き散らしながらも取り込んだ感情をどうにか吐き出そうと悶え苦しむ。 しかし、彼女の意思に反して吐き出すことは叶わず、なおもその身は負の感情を取り込み続ける。 「ハァハァ・・・・・・うあっ・・・あっ!頼む!止めて・・・あ゛あ゛あぁぁぁぁぁあああああ」 悲痛な叫びが木霊する。相反する感情の板ばさみに彼女の精神は蝕まれていった。 【グラキエース 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況:精神不安定 機体状況:バイタルジャンプによりEN1/2減少 現在位置:A-2北西部 第一行動方針:??? 最終行動方針:??? 備考1:果てしなく大雑把にジョシュアの存在を感知 備考2:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】 【アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ 搭乗機体:フォルテギガス(スーパーロボット大戦D) パイロット状況:健康。なんか疲れた 機体状況:無事。ENを少し浪費。 現在位置:A-2南部湖上 第一行動方針:突然消えたラキを探す 最終行動方針:ゲームから脱出 備考:クルツを警戒している】 【初日 18 05】 本編94話 Time Over ―私の中のあなたにさよならを―
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/131.html
星落ちて石となり ◆7vhi1CrLM6 目の前で燃えさかる炎の濃淡は同じようでいて、一時も同じ形を留めない。 集めてきた枯れ木を真ん中あたりで二つに折り、炎の中に投げ込む。 焚火を眺めつつ、ぼんやりと物思いにふけっていた。 思い出すのは、わずか数時間行動を共にし、自分の為に命を落とした青年のこと。 最初は敵だった。襲いかかったところを気絶させられた。 そのとき、殺そうと思えば殺せたはずだ。一人しか生き残れないルールだって知ってたはずだ。 なのに、あいつは私を殺さなかった。 そして、私をかばって……死んでいった。 そう考えるのは自分の思い上がりなのかもしれない。実際はかばったのではなく、単に逃げ切れなかったのかもしれない。 例えそうだとしても……あいつが死ぬことなんてなかったんだ。 馬鹿だよ、あんた……。会いたい人だっていたはずなのに……。 彼のことをラキに伝えると決めた。やると決めた。 それで吹っ切れた。吹っ切れたはずだった――。 けれども、やることに追われているときはともかく、少し余裕ができると頭はそのことにとらわれる。 回り巡った思考は消極的になり、ついついそこに落ち込んでいく。 そしてジョシュアの他にもう一人。自分たちを逃す為に身を残した男――アムロのことも気がかりだった。 ――みんな、自分勝手だ。 心底そう思う。 身を犠牲にして人を庇うのも、庇って死ぬのも、気は楽だ。 待たされるほうが辛い。残されるほうがしんどい。 両膝を抱く手に力がこもる。うつむきがちだった顔がさらにうつむき、額がこつんと膝頭に当たった。 「アムロのことを心配しているのなら無用だ。私の知る限り、奴ほど優れたパイロットは他におらんよ。それに――」 悩みを見透かしたかのような声が飛んできた。わずかに顔をあげて、目の前の男をぼんやりと眺める。 そこにいるのは一匹の濡れ鼠。 F-2の補給ポイントが湖の底だったため、強引に潜った名残だった。 今は近場の岸で乾かしつつ、アムロを二人で待っている。 「それに?」 「それに私も奴も多くの者の犠牲の上に生き過ぎた。こんなところで死ぬなどということは許しては貰えんよ」 目の前の男はどこか遠い目をして語る。 多くの者と言ったが本当に心に残っている人はそんなに多くないのかもしれない。でもそれだけに大事な人だったのだろう――なんとなくそんな気がした。 「何より、私との決着をつける前に死ぬなど、この私が許しはせん」 力強い声。そこに込められているのは一体何なのだろうか――。 「そっか……信頼してるんだ」 そんな感想が知らずと口から洩れた。 強い信頼、妄信ではない何かに裏打ちされた信頼。そしてそこにどんな感情が身を潜めているのか――予想もつかない。 ふと自分はどうなのかと気になる。 DCに所属していた分だけ人の生き死には並より多く見てきたという気はする。 それでも外宇宙への夢があった分だけ前向きに生きていたと思う。 でも、今は何が何でも生き残りたいという目標がない。 決して死にたいわけではないけど、ここには私なんかより生きたがっている人がいる。 それでもラキにジョシュアのことを伝えるまでは死ねない、そう思うのは我が侭なんだろうか……。 今の私をみたら、きっとスレイはいつもの台詞を吐くのだろう、『負け犬』と。 「ジョシュアといったかな」 「えっ?」 「あまり悩むな。恨んでも悔やんでも、死んだ人間は、生き返らん。己が生き残れただけでも良しと思うことだ」 どこか重い響き。その言葉には人生を生き抜いてきた一人の人間としての真実が込められている。そういう響きだった。 まぁ、別に復讐を思って考え込んでいたわけではないのだけれど……。 そんなことを考えていた時、突然の強風に襲われ、火の粉が舞った。煽られた焚火の火が消え、辺りは暗闇に包まれる。 「あらあら、灯りが見えたから、試しにきてみれば……こんなところで呑気な人たちね。いつ、誰が、あなたたちを殺しに来るのか分らないのに」 頭上から声が降ってくる。向けた視線の先には大型機が静かに鎮座していた。 月の照り返しを受けて白銀に輝くそれは、どこか神秘的な雰囲気を醸し出している。頭から羽根を生やしているという意匠が、神体を連想させているのかもしれない。 だがパイロットが放っているのは、頭の上から爪先まで品定めをするかのような視線。嘲り笑うかのような口調。 あまりにも機体の意匠からかけ離れているため、かえってそれらが際立って感じられる。思わず全身の毛が怖気立った。 「あなたたち、残念だけど……使えそうにないわね」 逃げてごらんなさいとでも言いたげに機体の足を踏み出し、脅かしてくる。 思わず後退りしたアイビスとは逆に、シャアが果敢にも一歩を踏み出す。 「アイビス、何故こうまで多くの争いが起こっていると思う」 「えっ?」 「病んでいるのだよ。この世界も、人の心も……。ここは私にまかせて貰おうか」 「うん」 相手に向かって歩いていく後姿を見つめる。相手の機体の大きさに比べてその背中は、あまりにも小さかった。 「君は我々を使えなさそうだと言ったな。ならば、我々に用はないはず。お引取り願いたいものだな」 「あの化け物が言ったことを忘れたの? 私は生き残りたいのよ」 「あれが約束を守るとも限るまい。他の方法を考えてみても無駄ではないと思うのだが」 「現実的ではないわね。あの化け物を相手にするのより、ここであなた達を殺すほうが現実的だわ」 圧倒的優位を自覚しているのだろう。その口調には余裕があった。 「なるほど。だが、君は分っているのか? あそこにある私に支給された機体は核ミサイルだ。あれが爆発すれば君も生きては帰れない」 説得。その次は脅し。実に落ち着いた声で淡々とシャアは述べる。 相手が沈黙した。表情を伺い見ることはできないが、おそらくは示された機体を確認しているのだろう。 その隙に気付かれないように、アイビスはゆっくりと湖ににじり寄る。 「確かに核ね。でも、あなたのほうこそわかっているのかしら? 今、あなたを踏みつぶしてしまえば爆発なんてしないのよ」 機体の手に光が灯し、笑いをこぼしながら彼女は言う。いまだに彼女の優位性は揺るがない。 「残念。寿命を縮めただけになっちゃったわね」 その声にシャアはわずかに肩を竦ませて見せた。そして「君は何もわかってはいない」と言葉を投げかける。 「何故、私が外部シートを申し訳程度にあつらえただけのミサイルを操ることができると思う? 全てはこのパイロットスーツとメットから動かすことができるからだ。 つまり、私は念じるだけで君を巻きこみ自爆することができるということなのだよ」 相手の嘲笑が消えた。 その様子を満足げに眺め、余裕を持った態度で男は言葉を繋げる。 「そこで一つ提案があるのだが、このまま我々を見逃してはもらえないか?」 ――上手い。 その様子を傍から見ているアイビスは、正直にそう思った。 現状は互いの喉元へナイフを突きつけ合っている状態によく似ている。 ただし、本物らしく見せてはいるがシャアのナイフはただの紙切れ、まがい物である。 だからこそ核という無視できない手札を明かすことによって相手の意識をそこに縛りつけた。 そうすることによって意識は手元の本物ナイフから離れ、相手の偽のナイフばかり気にするようになる。 やがて重い口を開けた彼女は憎々しげに言葉を漏らす。 「そんな虫のいい話が通ると本気で思っているの?」 虚勢と動揺の入り混じったような声。もう一押しだ。そう思った。 「そうか。ならば仕方がない―― ――私だけでも見逃してくれ」 「本気?」 「今ならこの樹脂マスク三点セットも付いてきて、よりお買い得だ。どうだ? 悪い取引ではないと思うが」 「それは魅力的ね」 「ボイスチェジャー機能付きの逸品だ。他人に化けることが出来る」 「こずるい人」 混乱するアイビスを傍目に、交渉は進んでいく。 あまりの出来事に、思考がごっそりと停止してしまったかのような感じだ。 「チャンスは最大限に活かす。それが私の主義でな」 「いいわ。あなたは見逃してあげる。でも、そっち娘は別よ」 どこか安心したような声だったが、その内容は洒落になってない。 「いいだろう。感謝する」 「えっ? えっ?」 口を挟む間もなく交渉は終了した。 視界の中を、コックピットに向かって放り投げられた樹脂マスクが横切っていく。 「ちょっと、一体どういう」 「聞いての通りだ。後は頑張りたまえ」 ようやく抗議するも、あっさりと突き放されて終わる。 呆然とするアイビスの目の前を、男はゆったりと通り過ぎ、核ミサイルに乗り込む。 「一つ、言い忘れていた。この核は衝撃によって誘爆もおこる。今後も私への手出しはさけることだな」 そして、一つ念を押すとあっさりと飛び去って行ってしまった。 離れ行く噴射口の明かりが徐々に小さくなる。その様をなすすべもなくただ見送っていた。 胸中に渦巻くのは『売られた』という思いだけ。 「残念。見捨てられたようね」 「うるさい! 黙れ!!」 ジワリジワリと怒りが込み上げてきてつっけんどんに返す。なんか気持ちがささくれ立っていた。 難題を押し付け、相手が渋ったところで一歩引いてみせる。交渉としては理に適ったやり取りだったのだが、切られた身としては納得がいくはずもない。 「やつあたり? ヒスおこしたって知らないわよ」 「黙れって言ってんのよ! おばさん!!」 「あたしはまだ17よ」 そうして暫くぎゃいぎゃいと始まる口喧嘩。というより、一方的にアイビスが噛み付き、カテジナがそれをあしらっているだけなのだが。 しかし、罵詈雑言を掴みかからんばかりの勢いで浴びせかけられたら、さすがに誰でも嫌気が指す。むしろよく耐えたと褒め称えたい。 「もういいわ。何であたしがあなたのヒスに付き合わなければならないの。今すぐ黙らせてあげるわ」 「やれるものならやってみろ! ブレン!!」 「……!!」 月を映し出した湖面から、一筋の光が飛び出してくる。不意を付いた攻撃にカテジナは思わず跳びさがる。 その様子を確認し、アイビスは湖に向って一目散に駆けた。 補給中のブレンは湖底にいた。それがいい方向に作用し、隠れているという形になっていたのだ。 牽制を行いつつ浮上してきたブレンが見える。躊躇なくコックピットに跳び移る。 「ブレン、いくよ!!」 ソードエクステンションを三制射、同時に弾けるように空を駆ける。 ――相手の動揺が消えないうちに攻撃を仕掛ける。 牽制の三射は全てかわされた。予想外に敵の動きが早い。しかし、詰めた距離も残り幾許もない。 躊躇することなく懐に飛び込む。それを阻止しようと腕が突き出されるのが見えた。 ならば、まず邪魔なそれを斬り落とそうと、ソードエクステンションを振り下ろす。 鳥の地鳴きにも似た接触音。伝わってくる手ごたえは金属のそれとは異なる。 ――フィールド? 予想外の違和感に困惑するのも束の間、全身の細胞が警告を発した。 一切の確認を放棄して全速でその場を駆ける。風を切る音が耳元で唸る。 それに構わず駆け抜け、一先ず距離を取った。 「……シールド」 苦虫を噛み潰したような顔で呟く。 距離を取り確認してみたところ、斬撃を弾いたのはフィールドではなくて盾。 六角形の赤い光が寄り集まり形を形成しているそれは、これまでに見たことのない物だった。技術体系の得体の知れなさが、どうにも薄気味悪い。 あの赤い光体は攻撃にも転用できるものなのだろうか、と頭の隅で考える。 「盾? へえ、こんなものもあったんだ。楽しくなってきたじゃないか!」 猫が獲物を嬲り殺しているかのような楽しそうな声。 予想外の出来事に驚かされはしたものの、自分の優位性を自覚しなおし、ジワリジワリと楽しさ込み上げてきた、そんな感じなのだろう。 ゆっくりと差し出された手に、光が瞬くのが見えた。咄嗟に左へ跳ぶ。 ブレンの間際を抜けた光が湖に着弾。巨大な水柱が吹きあがった。 「なっ!?」 思わず絶句する。あまりにもあっさりとチャクラシールドを突き破ってきた。 回避が少しでも遅れたらブレンの装甲ではもたない。一撃でもまともに当たればそれで終わり、そう直感が告げている。 ――冗談じゃない。 射撃で牽制を繰り返す。それを意にもかいさずに相手は光を乱射してきた。 しばらくの間、光線と光りが互いの間を行き交う。肩のすぐ脇を、頭上を、腰のすぐ左を飛び交う光が抜けていく。 それを無我夢中でかわしていた。 「どうしたの? 口数が減っているわよ」 時折、余裕を見せつけるかのように話しかけてくるのが癪に障った。しかし、それに言葉を返す余裕すらない。 最初に感じたように、大型機の癖に動きが機敏で捉えきれていない。放ったソードエクステンションはまだ一発も当たってはいなかった。 機体そのものの動きというより反射が異常に鋭いという感じだ。ほとんど攻撃を仕掛けた瞬間には反応されているという気さえする。 同時にその反応の鋭さはこっちの回避行動を圧迫している。 唯一の救いは、周囲の暗さで光を発する相手の攻撃を見極めやすいことと、相手が弄ぶつもりであるということ。 だけど、このままじゃいずれ―― ――冗談じゃない! 何度目も反芻するその言葉で、想像の先を遮る。 まだだ。まだラキに会ってない。ラキにジョシュアのことを伝えていない。 ――まだ……死にたくない!! 何か、何か手があるはずだ。いままで培ってきた経験の中で、何か――GRaMXs。 ――無理だ。 手が震え、頭が否定した。できるわけないだろう、そう思う。今まで一度だって成功したことはないのだ。 GRaMXs――重力加速制御応用の急加速突撃、ならびに攻撃対象との交差射撃による空間戦術。 その肝は最高速を保ちつつ行う急降下射撃と繰り返し行われる急加速と急停止。口で言うのは簡単だが、その機体制御は困難を極める。 ――冗談じゃない……。 心底そう思う。機体を保ち切れずに墜落までしているのだ。もうあんな思いは二度としたくなかった。 第一、ブレンは重力加速制御なんかで動いてはいない。リオン系ですらない。GRaMXsなんて土台無理な話なのだ。 だが、相手の軌道を読み切り旋回半径に飛び込むGRaM系とRaM系に共通する基本動作――。 ――それだけの動きならブレンと今の私でも! 迷っている暇はなかった。今この間も相手の攻撃は容赦なく襲ってきている。このままかわし続けてもジリ貧だった。 他に試せるものもない。飛び込んだ後はどうとでもなれだ。 心臓の鼓動が速い。腕に力が籠る。 『落ち着け、落ち着け』『きっと大丈夫、平気だ』そう何度も自分に言い聞かせる。 大きく息を吸い込み、ゆっくりと長く吐き出す。しっかりと前を見据えた。 「ブレン、やるよ!!」 今もジョシュアのようにブレンの声が聞こえてくることはない。やさしいというのもわからない。それでも声だけはかけようと決めていた。 相手の放った貫通光を避けた瞬間、ソードエクステンションで制射を行う。 牽制ではなく制射。相手を制するための射撃。 攻撃と回避を交互に行う。神経を針の先ほどに集中させながら相手の動きをつぶさに観察する。 反応は並はずれて鋭い。攻撃を仕掛けた瞬間に最小の動きで回避し、無駄なく攻撃に転じている。 相手は口喧嘩を行った時とは違い、極めて冷静な操縦を行っているとも言えるだろう。 逆に言うと、最小の動きでしか回避しようとしていない。少しでも守勢に回るのを極端に嫌っている、そういう風にも見えた。 ――そこにつけ込み誘導する。 大きく回避ができても小さく細かくとしか避けようとしない。ならば、予め狙いを調整することで。 まずは三発。焦っているように見せるよう狙いをいくらかずらせた攻撃。そして、脳内で予想した動きに合わせて続けざまにもう三発。 一度でもあてがはずれたら終わり、そういう攻撃を執拗に繰り返しながら突撃のタイミングを計る。 手に汗が滲んでいるのがわかった。 『焦るな』『慌てるな』、飛び出したくなる衝動を何度も何度も押さえつける。 そして、こちらの攻撃を嫌がり下に避けたとき、さらに下方に逃げ込むよう射撃を行いつつ急加速突撃を開始する。 一度大きく夜空に舞いあがる。 相手が湖面に邪魔をされて逃げ場を失い、射撃に捕まる。水煙に邪魔されて着弾の状況は確認できない。 ――構うものか! 霧がかったように霞むそこ目掛けて、垂直降下の最高速で突っ込む。 ソードエクステンションを下方へ真っ直ぐと伸ばした。銃口に明かりが灯り急降下射撃。 被弾した相手がこちらに気づく。 ――構うものか!! 「行っけえぇぇぇええ!!」 そのまま一直線に、一切の減速なしに突貫した。 前腕部に現出した赤いシールド、そこに刃が突き立ち、貫く。 大きな減速感。だが、まだブレンの足は止まってはいない。腕をすり抜け再加速。しかし、感じるのは何かに包まれているような減速感。 ――構うものか!!! そのまま全身を叩きつけるようにソードエクステンションを突き刺す。 だが、その刃は巨神まであとわずか数十cmというところで届かない。磁石が反発しあうような抵抗。 カタカタと小刻みに揺れる刃を全力で押し込む。だが、届かない。 「アハハハ……残念。惜しかったねぇ」 死を宣告する死神の声。表情が凍りつく。 知らずに腰が引け、それがブレンに伝わり徐々に押し戻される。 ――もう、逃げるしか……。 逃げる? また私は逃げるのか? フィリオから、プロジェクトTDから逃げ、ギンガナムから逃げ、アムロさんを置いて逃げ、そして夢からも逃げてきた。 それなのに、また助かりたいために逃げる。この先もずっと逃げ続ける。それでいいのか? バイタルジャンプで逃げるしか手は残されていない、それはわかっていた。そして、補給はすんでいる。逃げ切ることは可能だ。 でも、それでいいのか――。 ――いいわけ……あるか!! 「うわあああぁぁぁぁぁあああああああ!!!」 目の前の障壁を破ること以外何も考えてない、ただ力任せの突撃。しかし、渾身の突撃。 アイビスも、ブレンも、全ての力をそこに注ぎ込む。 だが、無情にも刃は届かない。ほんの少し、わずか紙切れ一枚の距離が埋まらない。 「見苦しい特攻ね……」 もはや飽きたとでもいいたそうな声。 ゆったりと巨神の腕に光の刃が現出し、大きく振り上げるのが見えた。 悔しい。悔しかった。悔しくて涙がこぼれた。だが、目の前の埋まらない距離はどうにもならない。 そして、死の宣告は最後の言葉を告げる。 「今終わりにしてあげるわ」 「それはどうかな」 割って入ってきたのは聞き覚えのある声。立ち去り、逃げていったはずの男の声。 一瞬、幻聴かと耳を疑った。だが、続く言葉で幻聴ではないと知る。 「下か!? くっ!!」 目の前に立ちはだかり決して動かなかった抵抗が消えた。巨神が動き、逃げたのだ。 そして、目と鼻の先を、水中から姿を現した真っピンクのボディが飛沫を散らしながら流れていく。 風を切る、流線形の先端とそこにあつらえられた角。そして、危険を示す独特のマーク。 見間違えるはずがない。見間違えようがない。シャア=アズナブル、彼が戻ってきたのだ。 「機体の性能の差が戦力の決定的な差ではないということを教えてやろう」 ――速い! 瞬く間に二機の差が詰まり、慌てた巨神が機体を翻して突撃を避けるのが見えた。 接触寸前、あわやというところで核ミサイルは巨神の脇をすり抜ける。 「ちっ! 何故、まとわりつく。気持ちの悪い」 「どうした? 集中して避けねば、私もろとも地獄行きだぞ」 「い、言われるまでもない」 「そうしてもらいたいところだな。私もまだ死ぬわけにはいかないのだよ」 「なら、こんな無茶はやめたらどうだい!」 「そういうわけにもいかんのでな」 「くっ・・・・・・ふざけたことを!」 上空で行われる二機のやり取り。 核ミサイルが執拗に追い回している。巨神は誘爆を恐れて牽制を行うことすらできずに逃げまどう。 相手の動きと技量を読み切り、余裕を与えないために接触ギリギリのところで追い回す腕――圧倒的だった。 桁違いに鋭いと思っていたあの反応速度でさえも、一歩も二歩もシャアが上をいっている。 あの女が攻撃と同時に反応しているとしたら、シャアは予備動作のうちに既に反応しているという感じだ。 「凄い……」 知らずにそんな言葉が口から洩れていた。 「アイビス!」 怒声が通信機を伝って流れてきた。それではっとする。 気づけば目の前の戦闘に見惚れていたのだ。 「さっきの攻撃をもう一度しかけろ。私では決め手がない」 「でも……」 口ごもる。眼の前の戦闘に割って入れるとは思えなかった。 核ミサイルに追われることで無秩序性を増した動きを読み切る自信もない。 「私がサポートするのだ。自信を持っていけ」 隠してはいるが、どこか辛そうな表情。 高速で動くミサイルに剥き出しで座っているのだ。その身体にかかる負担は想像を絶するのだろう。 「わかった。やってみる」 「二手三手先を読むよう心がけろ。私の軌道予測も忘れるなよ」 通信はそれだけで終わりだった。シャアとて無駄口を交わしている余裕などないのだ。 一度顔を拭い、上空を見上げる。 シャアは自分の軌道予測も忘れなと言った。つまり無秩序に追いかけまわしているように見えて、そこに何かしらの条件があるのだろう。 外から見ていればわかるだけの何かを――。 目を皿のようにして、目まぐるしく動き回る二機の軌道を追いかける。 最接近する際の位置関係――違う。 追いやる方向の規則性――違う。 方向転換――全然違う。 焦りと不安を押さえつけ必死に、必死に探す。 どれだ? どこだ? どこに規則性が、ルールが、条件が――。 ――見つけた。 もしかしたら間違いなのかもしれない。それでも――。 (ブレン、私に付き合ってもらうよ) (…………) 一瞬、ブレンが相槌を打ってくれたような、そんな気がした。 今度は射撃なしの急加速突撃。目指す先は今現在の敵機の場所よりやや北東。 シャアは一定空域から逃さないように相手を追っている。逃げようとすれば回りこみそ転進させているように見えた。 だから読みが正しければ、次はそこで軌道が変わるはずだ。 読みは的中。相手は核に追われて狙った場所へと押しやられている。 後は不意を討てるかどうか、盾さえなけば障壁は抜ける。相手が気づくか気づかないか、それだけは賭けだった。 軌道に合わせて微調整。タイミングを合わせる。あとは――。 ――思いっきり突っ込むだけだ。 前回同様、ソードエクステンションを構え、最高速で突撃する。 僅かに違うのはその軌道。上方から抉るように突っ込んだ。 直前で気づかれ、進路を遮った赤い光のシールド。それを突き破る。だが、やはりここで速力がそがれる。 ――まだだ。まだ! 腕をかい潜って再加速。 纏わりつく減速感。構わずに全身全霊を込めて突き進む。ただ前に。ほんのわずかでも前に。 だが、刃は届かない。わずか紙切れ一枚の距離が絶望的に遠い。 「諦めな。お前たちでは盾と音障壁は破れないわ」 「そうでもない。アイビス、撃て!」 薄ら笑いを貼り付けたような声を突き破り、シャアの声が届いた。 咄嗟にトリガーを引く。突き付けた切っ先に光が灯り、ようやく、ようやく音障壁を突き抜けた。 そして、狂ったようにただひたすら撃ち込む。 「落ちろ! 落ちろ!! 落ちろ!!!」 被弾した巨神が湖岸に沈み、その爪痕を大地に残す。 そこへ間髪入れずにシャアが追いすがる。土を撒き上げ、四肢全てで大地を蹴るようにして巨神がかわす。 土に混じった石。それを弾いた核の外装で火花が散る。 シャアの核ミサイルがそこを抜けたときには、既に敵は離脱を始めていた。 「逃がさない!!」 「待て、アイビス!」 追撃をかけようとしたアイビスをシャアが止める。 核ミサイルもこれまでのように追いすがってはいなかった。 「何故、止めた!」 「土を掴んで逃げた。あれぐらいでは核はびくともしないが、剥き出しの私はそうはいかんのでな。 かといって、君一人に追わせるわけにもいかん。それに、絶対的に有利な状況を覆して見せ、心理的に追い込みはしたが、実際は大した被害は与えておらんよ。ここが引き際ということだ」 諦め切れないように逃げた方向を睨みつける。漠々たる闇があるのみで、そこには既に敵の姿はなかった。 それからふと思い出したように声を投げかける。 「怪我は? 土を撒き上げられたでしょ?」 「大丈夫だ。大きな塊は私には当たらなかったようだ」 「そっか」 身振り手振りをまじえて無事をアピールしてくる様子を見て、ほっと息をつく。 そして、また別のことを思い出し、口を開いた。それもひどく刺々しく。 「何で逃げた?」 「余裕を奪うために不意を突く必要があった。彼女が冷静な状態ならば、ああも上手くは追い込めなかっただろう。 同時に、ある程度こちらの実力を見せつけておく必要もあった。これで今後彼女は我々に手出しをしにくくなるはずだ」 そりゃあ、誰だって核ミサイルなんかには追いかけられたくないだろう。執拗に相手をつけ狙いそうな彼女だって例外じゃないはずだ。そう思った。 「付け加えるなら、樹脂マスクはコックピットの位置を確認するための小道具だったといったところだな」 「そのせいで私は死にかけたんだけど……」 「あの程度の時間で君はやられたりせんよ。それにバイタルジャンプの存在もある。もっとも少々買いかぶり過ぎだったようだが……」 「どういう意味よ……」 「だが最後の動き、あれは自信を持っていい」 睨みながら返した言葉にシャアは笑って見せた。 「しかし、アムロが遅いな。少々気になる……なっ!!」 そう口にした瞬間だった。突然飛来した赤い光の矢が数本、核ミサイルを襲った。 慌てて飛んできた方向にソードエクステンションを構える。遠距離から狙い撃ちされたのか何も見えない。だが、方角はさっきの敵が逃げたほうだった。 甘かった、そう思う。あれほど執念深そうな相手がこのまま見逃してくれるはずはなかったのだ。 きっと核が爆発しても平気な距離から攻撃を仕掛けてきたんだ。そう思った。 しかめっ面で夜の闇を睨みながら声を掛ける。 「無事か?」 「逃げろ!」 返ってきたその言葉が意味するもの、それは絶望だった。 私ともあろう者が、間の抜けた失敗をしたものだ。 おそらく相手はミサイルの噴出孔の明かりを目印に攻撃をしてきた。さっさと地上に降りるべきだった。旋回を行いつつ空中で会話などするべきではなかったのだ。 不意を突かれたが矢は全て避けた。中には際どいものもあったが、一本たりともかすりもさせていない。 しかし、しかしだ。際どいもののうちの一つが体の間際を抜けていった。 その余波の熱と風圧。たったそれだけで、僅かなパイロットスーツに身を守られただけの身体は、ズタズタにされた。 普通の機体に乗っていればなんでもないことだった。 今は、気を失わなかったのが、ほとんど奇跡と言ってもいいありさまだった。 「逃げろってどういう意味さ!!」 アイビスがブレンから身を乗り出し叫んでいる。無茶をするものだ、そう思った。 「わからんのか。私の体がもたんのだよ。もうじき核が地表に落ちる」 最後の意地のようなものだけでミサイルを水平に保っていた。 しかし、徐々に高度が落ちてる。一度、気を失えば激突は免れえないだろう。 「今、助ける!」 「どうする気だ?」 「ブレンで操縦席だけはぎ取る」 「ハハハ……無駄なことはよせ、アイビス。私がいなくなれば即座に核は落ちるのだぞ」 大口を開けて笑う。体中が痛かった。 「だからって、見捨てられるか!!」 「アイビス、お前はジョシュアに命を託されたのだ。 お前は、彼の骸の重さを知っている。だが、託された命の重さはその比ではない。 お前はそれを背負ってしまった。 自分を支えられる強さを持て、アイビス。お前が生き抜いていくために、ここで私を捨てて行け」 「まだあきらめるな! 決着をつける相手がいるんだろ!!」 「ブレン、優しい子だ。だが、迷うな。守るべき人間を間違えるな。跳べ!」 「待て、ブレン」 「アイビス、死ぬことだけは許さん。後は好きにしろ。行け、ブレン!」 歪な音と共に眼前からブレンが掻き消える。 「私の命も背負っていけ、アイビス……」 宵闇の空に一人取り残された男の呟きは、闇に溶けて消えた。 次の世代に託す。それもまんざらではない。そんな気分だった。 死を直前にしてみて、意外と未練は少なかった。 ただ、アムロと決着をつけられない、それだけが残念だと思った。 頭がくらりとする。痛みはもう感じない。 まだだ。まだ私は生きている。生きている限り、核を落としはせんよ。そう思った。 コロニー落としを行なった自分が、何を今さらといささか滑稽な感じがした。 視界が暗い。あれは地表なのか。ということは、私は落ちているのか。水平に保とうと機体を起こす。 月が目に入り、次に真っピンクの円筒形が、視界の中を下から上へ流れていった。 浮遊感に包まれながら、月を見続けていた。 『大佐……』 どこからか声が聞こえてくる。ひどく懐かしく優しい声。すぐ行く。ただ、そう思った。 そして、光の海に呑み込まれた。 常闇の中に灯りが燈る。その灯りを受けて、白銀の巨神がオレンジに染まっていた。 その中でカテジナ=ルースはうっとりと恍惚の表情を浮かべている。 「あたしを追い払った。それだけで勝った気になっているなんて、甘いよねぇ」 長距離から核を狙うことに、まったく自信がなかったわけではなかったが、不安もあった。 ――だが、うまくいった。 小賢しい手を使って追い回してきた男と、生意気な女を葬り去れたことが愉快だった。 これで憂さも晴れるというものだ。 そして、なによりも心かきむしるほど目の前の光景は素敵だった。歴史上のどんな芸術家が描いた絵画よりも魅力的だった。 核の炎、あらゆる歴史が否定するそれは、実際に見てみると見惚れるほど素晴らしかった。 とはいえ、いつまでも眺めているわけにもいかない。ラーゼフォンのエネルギーが底を突きかけている。補給が必要なのだ。 それでも、もう少しだけこの愉快で美しい灯火を鑑賞していよう。そう彼女は思った。 時を、三時間ばかり逆行させたその光は、落ちゆく夕陽のように美しく、どこか幻想的で、そして禍々しかった。 その背筋の凍るような光景をただ呆然と眺めていた。地鳴りが耳に響いている。 ――みんな、自分勝手だ。 心底そう思う。 勝手に一人でかっこつけて、勝手に死んでいく。 助けられたほうがどんな気持ちになるかなんてまるで考えてない。 ――みんな、馬鹿だ。 あんたたちのやったことなんて、ただの自己満足だ。 私なんか助けずに逃げたらよかったんだ。ジョシュアも、シャアも、私に構わなければ逃げ切れた。 自分だ。自分の存在が人を殺している。そう思えた。 「好きにしろだって? こんな私に一体どうしろっていうのよ……」 死ぬことを禁じられた。だが、泣くことは許されていた。 星落ちて意志となり、小さき星に受け継がるる。 【カテジナ・ルース 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン) パイロット状況:精神不安定(強化の副作用出始めてます) 機体状況:胸部に軽傷・頭部の両側の羽根が焼け焦げている・EN残量1/10 現在位置:F-1 第一行動方針:補給 第二行動方針:自分が利用できそうな存在を探す 第三行動方針:利用価値の出来ない人間は排除 第四行動方針:利用価値が無くても大所帯はあまり相手にしない 最終行動方針:生き残る 備考1 カテジナはラーゼフォンの奏者として適性が無いため真実の眼が開眼せずボイスも使えない 備考2 ブライト、ガトー、アズラエルの樹脂マスクを所持。ボイスチェンジャー機能付き】 【シャア・アズナブル 搭乗機体?:核ミサイル(スーパーロボット大戦α外伝) パイロット状況:死亡 機体状況:消滅 現在位置:F-2東部】 【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況:良好 機体状況:ソードエクステンション装備。機体は表面に微細な傷。 バイタルジャンプによってEN1/4減少。 現在位置:E-2北東 第一行動方針:核の汚染を避けるためにその場を離れる 第二行動方針:アムロと合流 第三行動方針:ラキを探し、ジョシュアのことを伝える 最終行動方針:どうしよう・・・・・・ 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません。 】 【残り35人】 【時刻 21 00】 BACK NEXT 暗い水の底で 投下順 Take a shot 暗い水の底で 時系列順 Take a shot BACK NEXT 青い翼、白い羽根 カテジナ 心、千々に乱れて 赤と流星、白と勇者王 シャア 赤と流星、白と勇者王 アイビス 死人の呪い
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/54.html
歌と現実 ◆h13q4eyrNs 汎用人型決戦兵器 EVA-00 PROTO TYPE。 それがラクス=クラインに与えられた機体だった。 その形状は彼女が知るモビルスーツとはかけ離れており、いわば【巨人に鎧を着せたモノ】とでも形容すればいいのだろうか。 ブルーに染められたボディ、一つ目の頭部。 そして―――"人造人間"という肩書き。 (…にしては、"人間らしさ"を感じませんわね) ウェットスーツのような構造のプラグスーツを身に纏い、L.C.L.という液体に満ちた(呼吸はできる)コックピット、エントリープラグの中で、 ラクスはそんなことを考えていた。 (ヒトが造りしヒト………わたくしたちコーディネーターとは随分毛色が違うけど、この子には魂はないのかしら?) 彼女自身も造られた人間―――厳密には第2世代であるが―――『コーディネーター』の肩書きを持つため、 この機体には興味が持てた。 だが、この機体からは命や精神、そして感情が全く感じられない。 (プロトタイプだから?いえ………あるいは、ヒトを造ることなど………) その考えに至ると、急に自分の存在が怖くなった。 元の世界でコーディネーターが迫害されていることもあって、自分達が『あってはならない存在』なのかもしれないと思ったからだ。 「いけませんわね、こんな弱気では」 殺し合いと言う極限状況に置かれているから、などという言い訳は通用しない。そんな状況に置かれているからこそ、前向きにならないといけないのだ。 そう自分に言い聞かせ、ラクスはまるで母体の中にいる胎児のような気分で、モチベーションを高める為に、歌を歌う。 『静かな~この夜に~あなたを~待っ(ry』 魂なき人造人間に、人類の持ちうる最高峰の歌声が響いた。 一曲歌い終えたラクスは一息ついて、これからどうするのかを考える。 「まず、キラと合流したいですわね」 見ず知らずの他人よりは、自分と共に戦った仲間のほうが信用できるのは当然だ。最初の場所で会ったキラは、確かに彼本人だった。 様々な死線を乗り越え、精神的にも強くなったキラなら容易にこんなゲームに乗ることは無いだろう。 次に、この首輪だ。希望的観測だが、ここに集められた者の力を結成すれば或いは外せるかもしれない。そしてあの化物を倒すことも。 「………茨の道ですわね」 かもしれない、という一縷ですらない望み。生き残りたいのなら、ゲームに乗るのが一番手っ取り早いだろう。 だが、殺し合いに乗るという選択肢はラクスには考えられなかった。 ピピッ 電子音が聞こえ、L.C.L.に映像が浮かび上がる。かなりのスピードで何かが接近している。 機影がモニターに移る。 映った機体は、見覚えがある機体だった。 破砕球が飛び、実体弾が迫る。 「フィールド、展開ですわっ!」 六角形の力場が破砕球を弾く。 六角形の力場が実体弾を弾く。 零号機が銃を取り出して構える。 レイダーが大口径の銃から発射された劣化ウラン弾を変形して回転しながらかわし、その勢いで接近。 そして大型クローの付け根に位置する短距離プラズマ砲【アフラマズダ】を放つ。 プラズマ砲が迫る。六角形の力場がプラズマ砲を弾く。 つい先程始まった戦闘は、互角に進んでいる。 いかなる通常兵器も展開されたA.T.フィールドには通じない。 とはいえ、EVA零号機もアンビリカルケーブルのせいであまり縦横無尽に動き回ることはできず、 高速で移動しながら攻めてくるレイダーに攻撃が当てられない。 『どうか剣を収めてください、わたくしに戦う意思はありません』 ラクスは戦闘が始まる前と同じ通信を送るが、レイダーのパイロットは全く聞く耳を持たず攻撃を続ける。 レイダーはMA形態に変形し、機関砲で牽制しながら接近し、再びMS形態に変形して攻撃を繰り返す。 ラクスは戦闘兵器での戦闘に慣れていない。だが、搭乗者の脳波を通じてダイレクトに動かせるEVAならある程度は戦える。 加えて敵機、GAT-X370レイダーは零号機の三分の一程度の大きさ。 パワーでは負けるはずもないし、巨体ゆえの弱点、小回りの利かなさによる隙もA.T.フィールドのおかげでカバーされている。 レイダーが一旦離れる。 旋回してEVAの真後ろの廃墟に回り、口の開口部より100mmエネルギー砲【ツォーン】を発射する。 廃墟はエネルギー砲に貫かれ、爆音とともに崩れ落ちる。レイダーは防盾砲を構えながら空中に静止し、攻撃の効果を伺う。 粉塵が舞う。その中で何かが光った、と思った瞬間、ビームのようなものが飛び出してくる。 運よくビームはレイダーを逸れるが、廃墟と化した街のビルを次々と薙ぎ倒しながら飛んでいき、見えなくなった。 その余りにも埒外な威力に一瞬レイダーは動きを止めてしまい、ズシンという轟音が響いたのが聞こえたときはもう手遅れだった。 粉塵を払い、巨大な手がレイダーを掴む。先の轟音は今のビームを放ったライフル(と呼ぶには巨大すぎるが)を地面に取り落とした音の様だ。 『あなたもMSのパイロットなら知っているはずです、陽電子砲の威力を』 三度通信を繋いだラクスは、内心自分もポジトロンスナイパーライフルの威力に驚いていた。 アークエンジェルの陽電子砲と比べても遜色ない大出力の攻撃を、カートリッジで連射可能と知った時は流石にブラフだろうと思ったが、 一応狙いを少し外しておいてよかった、と胸を撫で下ろす。 『そのモビルスーツ、レイダーの最大武器は先程のエネルギー砲のはずですわ、それもA.T.フィールドには通じなかった』 できるだけ優しく語りかける。そして相手の反応を観察する。 相手が元からこのゲームに乗るような冷酷な相手なら機体を破壊してこの場を立ち去るが、 恐怖でこのような行動を起こしてしまったのなら、できれば説得して仲間に加えたい。 『………………』 相手は全くの無反応だ。相手の息遣いは聞こえるので、通信機は壊れていないはずだ。 ラクスは訝り、もう一度通信を入れる。 『貴方は何故このようなゲームに乗って、何のために戦うのです?』 『………………』 『死ぬのが怖いのですか?』 ラクスはここで一旦言葉を切り、反応を伺う。 『死ぬのは怖くない』 唐突にレイダーのパイロットが言葉を発した。 『だが、死ぬわけにはいかない』 では、私と共に――――と言おうとした瞬間、銃撃音が響く。 レイダーが防盾砲を放っているのが見えた。 『何を―――?』 A.T.フィールドにはそんなものは通じないはず。 だが、レイダーが狙ったものは別の物だった。 地面に落ちたポジトロンスナイパーライフル。撃ち抜かれて行く。 ラクスは咄嗟に零号機の腕でボディを庇い、A.T.フィールドを作動させる。 ――――――廃墟が消滅するほどの爆発と、轟音が起きた。 何もなくなった廃墟跡に巨人が佇む。 膝を突き、完全に機能を停止している。その胸には大穴が開いている。 エントリープラグは射出され、地面に転がっている。 「う………うう………」 ラクスは胸を押さえ、痛みに震えている。 (まさか………あんなことをするなんて) レイダーは零号機に掴まれていたため、A.T.フィールドの中にいた。 爆発自体は耐え切れたが、いかに強力なシールドでもその内側に這入られれば無意味だ。 そして全武装での一点集中攻撃。EVAの特殊装甲を抜く程の誤差がない精密射撃によって零号機は倒れた。 EVAのダメージはパイロットに直接伝わる。 故にラクスは経験したことのない激痛を覚えていた。 ふと上を見上げると、霞んだモニターにレイダーが防盾砲を構えているのが見えた。 弾丸が発射される。エントリープラグを突き破り、ラクスを貫く。幾度も幾度も、貫く。 (アスラン………キラ………) ――――痛みが消えた。 L.C.L.の中で、自分の歌が聞こえたような気がした。 いつまでもいつまでも、歌が響いていた。 レイダーが飛ぶ。 爆音は間違いなく周囲に響いただろう。長居はできない。 パイロットの名はヒイロ=ユイ。テロリストである。 (………リリーナ) 彼は元の世界にいた、自分を変えた女性のことを考えていた。 テロリストである自分を恐れず正面から向き合った妙な女。 ヒイロは彼女を少し尊敬していた。だが、現在彼女は自分が敵対するOZのスポンサー、 ロームフェラ財団の傀儡にされようとしている。 声しか聞いていないが、先程の女はどこかリリーナに似ていた。 心に蔭りが射す。自分がこれからやろうとしていることを僅かに躊躇う。だが、止めるわけにはいかない。 (リリーナ………俺は必ず生き残り、元の世界に戻る。そしてお前を殺しに行ってやる) このゲームにどれだけの人数が参加しているのかは分からない。 だがいいだろう、人を殺すのには慣れている。 ヒイロは天を仰ぎ、呟く。 「答えろ、ノイ・レジセイア――――」 「俺は後、何人殺せばいい?」 【ラクス=クライン 搭乗機体:EVA零号機(新世紀エヴァンゲリオン) パイロット状況:死亡 現在位置:E-3 機体状況:胸に大穴、エントリープラグ内にラクスの歌が響いている?】 【ヒイロ=ユイ 搭乗機体:レイダーガンダム(機動戦士ガンダムSEED) パイロット状態:良好 機体状態:良好 現在位置:F-3 第一行動方針:参加者の殺害 最終行動方針:元の世界に戻ってリリーナを殺すため、優勝する(リリーナが参加していることは知らない)】 備考:E-3の周囲一マス程に爆発音が聞こえました。E-3の廃墟が消滅しています。 【残り50人】 【初日 13 00】 BACK NEXT 仮面の作戦会議 投下順 闇色をした『王子』さま 若い、黒い、脅威 時系列順 闇色をした『王子』さま BACK 登場キャラ NEXT opening ラクス ヒイロ 閃光